・・・ 空間の概略な計測には必ずしもメートル尺はいらない。人間の身体各部が最初の格好な物さしである。手の届かぬ距離の計測には両眼の距離が基線となって無意識の間に巧妙な測量術が行なわれる。時間の測定には必ずしも時計はいらない。短い時間には脈搏が・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・第二には地震計測の方面がある。この方面の専攻者にとっては、地震というものはただ地盤の複雑な運動である。これをなるべく忠実に正確に記録すべき器械の考案や、また器械が理想的でない場合の記録の判断や、そういう事が主要な問題である。それから一歩を進・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ その後にまた、大湯附近の空気中のイオンを計測するために出張を命ぜられて来たときは人車鉄道が汽車の軽便鉄道に変っていたが、それでもまだやはり朝東京を出て夕方熱海へ着く勘定であったように思う。去年はじめて省線電車で熱海へ行ったときは時間の・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計測的の大きさの比以上に廓大して描いたり、喜怒の感情の発現を誇張した身振りで示すがごときは、最も月並な慣用手段である。もう少し進んだのになると、鼻や小鼻の曲線のあるデリケートな抑揚をつかまえて、これを少しアクセ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と未来には末広がりに朦朧たる不明の笹縁がつきまとってくる。そうして実はそういう場合にのみ通例考えられているような「因果」という言葉が始めて独立な存在理由を有するという・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫