・・・ Mの何か言いかけた時、僕等は急に笑い声やけたたましい足音に驚かされた。それは海水着に海水帽をかぶった同年輩の二人の少女だった。彼等はほとんど傍若無人に僕等の側を通り抜けながら、まっすぐに渚へ走って行った。僕等はその後姿を、――一人は真・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・今度は突然祭壇のあたりに、けたたましい鶏鳴が聞えたのだった。オルガンティノは不審そうに、彼の周囲を眺めまわした。すると彼の真後には、白々と尾を垂れた鶏が一羽、祭壇の上に胸を張ったまま、もう一度、夜でも明けたように鬨をつくっているではないか?・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・誰でも帳中に入ろうとすれば、帳をめぐった宝鈴はたちまちけたたましい響と共に、行長の眠を破ってしまう。ただ行長は桂月香のこの宝鈴も鳴らないように、いつのまにか鈴の穴へ綿をつめたのを知らなかったのである。 桂月香と彼女の兄とはもう一度そこへ・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・続けさまにけたたましい黒の鳴き声が聞えました。しかし白は引き返すどころか、足を止めるけしきもありません。ぬかるみを飛び越え、石ころを蹴散らし、往来どめの縄を擦り抜け、五味ための箱を引っくり返し、振り向きもせずに逃げ続けました。御覧なさい。坂・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・その時、外濠線の電車が、駿河台の方から、坂を下りて来て、けたたましい音を立てながら、私の目の前をふさいだのは、全く神明の冥助とでも云うものでございましょう。私たちは丁度、外濠線の線路を、向うへ突切ろうとしていた所なのでございます。 電車・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ところがそれよりも先にけたたましい日和下駄の音が、改札口の方から聞え出したと思うと、間もなく車掌の何か云い罵る声と共に、私の乗っている二等室の戸ががらりと開いて、十三四の小娘が一人、慌しく中へはいって来た、と同時に一つずしりと揺れて、徐に汽・・・ 芥川竜之介 「蜜柑」
・・・滑車がけたたましい音をたてて鉄の溝を滑った。がたぴしする戸ばかりをあつかい慣れている彼れの手の力があまったのだ。妻がぎょっとするはずみに背の赤坊も眼を覚して泣き出した。帳場にいた二人の男は飛び上らんばかりに驚いてこちらを見た。そこには彼れと・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・そしてそれらの棚の上にうんざりと積んであった牛乳瓶は、思ったよりもけたたましい音を立てて、壊れたり砕けたりしながら山盛りになって地面に散らばった。 その物音には彼もさすがにぎょっとしたくらいだった。子供はと見ると、もう車から七、八間のと・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・ と、あ、と声を内へ引いて遁込んで、けたたましい足音で、階子壇を駆上がると、あれえあれえと二階を飛廻って欄干へ出た。赤い鼠がそこまで追廻したものらしい。キャッとそこで悲鳴を立てると、女は、宙へ、飛上った。粂の仙人を倒だ、その白さったら、と消・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・一度ひっそり跫音を消すや否や、けたたましい音を、すたんと立てて、土間の板をはたはたと鳴らして駈け出した。 境はきょとんとして、「何だい、あれは……」 やがて膳を持って顕われたのが……お米でない、年増のに替わっていた。「やあ、・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
出典:青空文庫