・・・は、死刑の宣告を下されたことをあきらめ給えと云ったのだか、弁護士に大金をとられたことをあきらめ給えと云ったのだか、それは誰にも決定出来ない。 その上新聞雑誌の輿論も、蟹に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。蟹の猿を殺した・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・そうしてその論争によって、純粋自然主義がその最初から限定されている劃一線の態度を正確に決定し、その理論上の最後を告げて、ここにこの結合はまったく内部において断絶してしまっているのである。 四 かくて今や我々には、自己・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ これが台所会議の決定であったらしい。母の方でもいつまで児供と思っていたが誤りで、自分が悪かったという様な考えに今夜はなったのであろう。今更二人を叱って見ても仕方がない。なに政夫を学校へ遣ってしまいさえせば仔細はないと母の心はちゃんとき・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ 深田の方でも娘が意外の未練に引かされて、今一度親類の者を迎えにやろうかとの評議があったけれど、女親なる人がとても駄目だからと言い切って、話はいよいよ離別と決定してしまった。 上総は春が早い。人の見る所にも見ない所にも梅は盛りである・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・フィロソフィーというは何処までも疑問を追究する論理であって、もし最後の疑問を決定してしまったならそれはドグマであってフィロソフィーでなくなってしまうと。また曰く、人生の興味は不可解である、この不可解に或る一定の解釈を与えて容易に安住するは「・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・これは、外的条件が、内的の力を決定するのでない。 こゝに、自由の生む、形態の面白さがあり、押えることのできない強さがあり、爆破があり、また喜びがあるのである。自然の条件に従って、発生し、醗酵するものゝみが、最も創意に富んだ形を未来に決定・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・ かゝる場合は、決して、物質が、その人の幸福を決定する物指とはならない。野鼠に於けるがごとく、人間が着て食べて行くだけなら、たゞそれだけなら、幾何も要するものでない。むしろ、他の贅沢な欲望のためになやんでいるのです。そして、かゝるなやみ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・ 芸術に、階級意識のあると否とを構成上の条件とするか、せざるかは、むしろ、作者がいかなる生活意識を有するかによって決定されることです。 知識階級が、単独な階級として、持続されないことは、今や、明かなことゝされています。大多数が支配階・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・そして、その相場はたった一人の人間が毎朝決定して、その指令が五つの闇市場へ飛び、その日の相場の統制が保たれるらしい――という話を、私はきいたが、もしそうだとすれば、そのたった一人の人間の統制力というものは、この国の政府の統制力以上であり、む・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・何故なら学校では君の卒業は許さぬことに決定している。理由は三つある。一つ欠席日数超過、二つ教師の反感を買っていること、三つ心身共に堕落していること、例えば髪の毛が長すぎる云々。 私は希望通り現級に止まったが、私より一足さきに卒業した友人・・・ 織田作之助 「髪」
出典:青空文庫