・・・キリスト教の文化から背を向ければ、芸術的気質のない葉子には、擡頭しようとする日本の資本主義の社会、その社会のモラル、いわゆる腕が利く、利かぬの目安で人物を評価する俗的見解の道しか見えなかったことは推察される。 作者は一九一七年に再びこの・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 参議院の法務委員会と裁判所との間に、浦和充子の事件について、見解の相異があり、法務委員会の権限について論議されている。こういう問題も、わたしたちは、人民の基本的人権の擁護とブルジョア的な法律適用による裁判が果して公正なものであるかどう・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうでなければならないかという一般の原理に対しては、いつも公平な立場で、社会的に理解し先進的な見解を失わない男である。「――彼女がどうだっていうんだ? 仕事・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・のこころもち、自分の考えを、どこまでも私ごとという、カラの中に封じておくならば、決して社会は進歩いたしません。 私たちのめいめいの心もち、考えの中に、ひろくひろく「公」の要素が加って、「私」の見解はとりもなおさず、一つのれっきとした「公・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・コフマンのこの本も猿が人間生活の感情にある理解をもつことは語っているが、アフリカの牝豹が守備兵を恋するというようなことは、科学の見解に立つ動物学者に肯定さるべき現実だろうか。シートンの生涯の努力がこの一つのために決して少くない信用を喪わせら・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・同時に、単純でない何ものか――謂わば狷介というようなものをも一面感じられる。―― 私は、自分からは、どう出てよいか分らず、瀧田氏から訊かれることだけを答えた。忘れたが、きっと、いつからものを書いているか、というようなことであったろう。原・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ 以上は保守の見解である。わたくしはこれを首肯する。そして不用意に古言を用いることを嫌う。 しかしわたくしは保守の見解にのみ安住している窮屈に堪えない。そこで今体文を作っているうちに、ふと古言を用いる。口語体の文においてもまた恬とし・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫