・・・ひょろ長い支那人のような後姿を辻に立った巡査が肩章を聳かして寒そうに見送った。 竹村君は明けると三十一になる。四年前に文学士になってから、しばらく神田の某私立学校で英語を教えていた。受持の時間に竹村君が教場へはいるときに首席にいる生徒が・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・彼らは見性のため究真のためすべてを抛って坐禅の工夫をします。黙然と坐している事が何で人のためになりましょう。善い意味にも悪い意味にも世間とは没交渉である点から見て彼ら禅僧は立派な道楽ものであります。したがって彼らはその苦行難行に対して世間か・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・両わきの小猿は、あまり小さいので、肩章がよくわかりませんでした。 小猿の大将は、手帳のようなものを出して、足を重ねてぶらぶらさせながら、楢夫に云いました。「おまえが楢夫か。ふん。何歳になる。」 楢夫はばかばかしくなってしまいまし・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・世界が連合国憲章をつくって、真から戦争とファシズムに反対し、一つの民族によって隷属させられる条件を否定している現代の歴史の中で、男と女は互の隷属から解放され、人間の仲間としての両性として生きられるように協力しようとしている。男と女を人民とい・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・茶坊主政治は、護符をいただいては、それを一枚一枚とポツダム宣言の上に貼りつけ、憲法の本質を封じ、人権憲章はただの文章ででもあるかのように、屈従の鳥居を次から次へ建てつらねた。 おととしの十二月二十日すぎに、巣鴨から釈放されて、社会生活に・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・資本の利害と打算は国際的であって、ファシズムの粉砕、世界の永続的な平和確立のための努力という、世界憲章のたてまえやポツダム宣言の履行と矛盾しながら、なおかつ資本は資本と結びつき得る本質のものであり、その利害には道義をつきのけたつよい共通性が・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ ヨーロッパの婦人たちが、民主平和のヨーロッパ再建のための連合国憲章にもとづいて、婦人たちの大統一戦線をこしらえはじめたこころもちは、同感される。第一次欧州大戦のあと、ヨーロッパ諸国の心ある人々が男も女も、平和の永続のために、どんなに苦・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・国連を支持するとならば、それは国連の良心を支持し、それを堅持させるように努力することしかない。国連憲章は第二条第四項で、領土保全と政治的独立に対して武力をもって脅威することを禁じている。第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはなら・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・ 新しく採択された中華人民共和国の大憲章が、その第一章第六条、第五章第四十八条に「婦人を束縛する封建制度を廃止」し、母性福祉を約束していることは当然といいながら、その現実的な価値ははかりしれません。なぜなら、新しい中国の人民社会において・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
ブルジュア・ジャーナリズムで行われるいろいろの懸賞募集の選は、いつも必ずブルジュア・ジャーナリズムの利害の見地でやられる。 当選した文章が、だから、いつもその時応募した数百のものの中で一番正鵠を得て書かれているとか、科・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
出典:青空文庫