・・・ 本多顕彰氏は月評の中で「勝沼戦記」は戦いを暗い方から描いたもの、「明治元年」は明るい方から書いたものという意味の短評をしていられた。「勝沼戦記」は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが、新撰組の残りを中心と・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・もしそういうことをするならば、言わず語らずのうちにこの愛嬌よい内閣は本質において戦争というファシズムに対して反対しないという恐ろしいことになりますから、ポツダム宣言や連合国憲章が全く愚弄されたことになりますから、愛嬌のよい内閣は正直というこ・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
来る二十一日から四日間にわたって日本ではじめての全国的な文化会議がもたれることになった。ポツダム宣言を受諾してから二周年、連合国憲章が出来てからも第二回の記念日を迎えた秋、私たちの日本でこういう文化的な会議がもたれることは・・・ 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
・・・ 日出新聞社が懸賞で脚本を募ったとき、木村は選者になった。木村は息も衝けない程用事を持っている。応募脚本を読んでいる時間はない。そんな時間を拵えるとすれば、それは烟草休の暇をそれに使う外はない。 烟草休には誰も不愉快な事をしたくはな・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・この日は白い海軍中尉の服装で短剣をつけている彼の姿は、前より幾らか大人に見えたが、それでも中尉の肩章はまだ栖方に似合ってはいなかった。「君はいままで、危いことが度度あったでしょう。例えば、今思ってもぞっとするというようなことで、運よく生・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫