・・・日本人が書いたのでは、七十八日遊記、支那文明記、支那漫遊記、支那仏教遺物、支那風俗、支那人気質、燕山楚水、蘇浙小観、北清見聞録、長江十年、観光紀游、征塵録、満洲、巴蜀、湖南、漢口、支那風韻記、支那――編輯者 それをみんな読んだのですか?・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・従って臭気も甚だしゅうございますゆえ、御検分はいかがでございましょうか?」 しかし家康は承知しなかった。「誰も死んだ上は変りはない。とにかくこれへ持って参るように。」 正純はまた次ぎの間へ退き、母布をかけた首桶を前にいつまでもじ・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
・・・この間町じゅうで大評判をした、あの禽獣のような悪行を働いた罪人が、きょう法律の宣告に依って、社会の安寧のために処刑になるのを、見分しに行く市の名誉職十二人の随一たる己様だぞ。こう思うと、またある特殊の物、ある暗黒なる大威力が我身の内に宿って・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・それに、久しい無縁墓だで、ことわりいう檀家もなしの、立合ってくれる人の見分もないで、と一論判あった上で、土には触らねえ事になったでがす。」「そうあるべき処だよ。」「ところで、はい、あのさ、石彫の大え糸枠の上へ、がっしりと、立派なお堂・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・「一体また二つの蜻蛉がなぜ変だろう。見聞が狭い、知らないんだよ。土地の人は――そういう私だって、近頃まで、つい気がつかずに居たんだがね。 手紙のついでで知っておいでだろうが、私の住んでいる処と、京橋の築地までは、そうだね、ここから、・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・公していたことがあるというし、また、調合の方は朝鮮の姉が肺をわずらって最寄りの医者に書いてもらっていた処方箋を、そっくりそのまま真似てつくったときくからは、一応うなずけもしたが、それにしてもそれだけの見聞でひとかどの薬剤師になりすまし、いき・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・しかし、いま私は「私の見聞した軍人援護朗話」という文章を求められて、この話を書き送ることにした。この十八歳の娘さんのいじらしいばかりに健気な気持については、註釈めいたものは要らぬだろう。ひとはしばらく眼をつぶって、この娘さんの可憐な顔を想像・・・ 織田作之助 「十八歳の花嫁」
・・・ 暫時聴耳を聳て何を聞くともなく突立っていたのは、猶お八畳の間を見分する必要が有るかと疑がっていたので。しかし確に箪笥を開ける音がした、障子をするすると開ける音を聞いた、夢か現かともかくと八畳の間に忍足で入って見たが、別に異変はない。縁・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・一同が茶の間に集まってがやがやと今日の見聞を今一度繰返して話合うのであった。お清は勿論、真蔵も引出されて相槌を打って聞かなければならない。礼ちゃんが新橋の勧工場で大きな人形を強請って困らしたの、電車の中に泥酔者が居て衆人を苦しめたの、真蔵に・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・が何より禁物なので、東京にゆけば是非、江藤侯井下伯その他故郷の先輩の堂々たる有様を見聞せぬわけにはいかぬ、富岡先生に取ってはこれ則ち不平、頑固、偏屈の源因であるから、忽ち青筋を立てて了って、的にしていた貴所の挙動すらも疳癪の種となり、遂に自・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
出典:青空文庫