・・・然し、顔や手の浮腫は漸々減退して、殆んど平生に復しました。これと同時に、脚や足の甲がむくむくと浮腫みを増して来ました。そして、病人は肝臓がはれ出して痛むと言います。これは医師が早くから気にしていたことで、その肝臓が痛み出しては、いよいよこれ・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ わけのわからぬ問答に問答をかさねて、そのうちに、久保田氏は、精神とかジャンルとか現象とかのこむずかしい言葉を言い出し、若い作家の読書力減退についてのお説教がはじまり、これは、まさしく久保田万太郎なのかもしれないなどと思ったら酔いも一時・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ というのが、四通の中の、最初のお便りのようである、この頃、三田君はまだ、原隊に在って訓練を受けていた様子である。これは、たどたどしい、甘えているようなお便りである。正直無類のやわらかな心情が、あんまり、あらわに出ているので、私は、はら・・・ 太宰治 「散華」
・・・そうして目立って食欲が減退するのであった。彼自身にも、それが病的であるという事を自覚しないではなかったが、その自覚はこのような発作を止めるにはなんの役にも立たなかった。そんな時に適当な書物を読めばいいことも知っていたが、発作のはげしい時には・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・しかし中毒であれば、飲まない時の精神機能が著しく減退して、飲んだ時だけようやく正常に復するのであろうが、現在の場合はそれほどのことでないらしい。やはりこの興奮剤の正当な作用でありきき目であるに相違ない。 コーヒーが興奮剤であるとは知って・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・そして食欲も著しく減退した。 うちの三毛が変などろぼう猫と隣の屋根でけんかをしていたというような報告を子供の口から聞かされる事もあった。 私はなんとなしに恐ろしいような気がした。自分では何事も知らない間に、この可憐な小動物の肉体の内・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ しかし、また、実際、特別緊急な捜しものをする場合には、心にこだわりがあって、自由な観察と認識の能力がいくぶん減退しているためもたしかにいくぶんかはあるらしい。 これとはまた少し趣のちがった「捜すものは無い」場合がある。 大きな・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・数年前まではこの日を指折り数えて楽しみにしていたのが、近年どうしたわけか、急に興味が減退した。今年はとうとう肝心の日をすっかり忘れてしまっていたのである。甚だ申訳ない次第である。これは一つには自分がだんだん年を取ってすべてのものに対する感興・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・それで冬が来るとからだは全くいじけてしまって活動の力が減退する代わりに頭のほうはかえってさえて来て、心がとかくに内側へ向きたがる、そのせいかもしれない。こんな気分の時にはここの書棚を物色する事がしばしばある。読んでみたい本はいくらでもあるが・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・そうしてちょうど四十歳近くで漸近的に一つの極限に接近すると同時に速度は減退して零に近づく。そこでそのままに自然に任せておけばどうなるだろう。たどり付いた漸近線の水準を保って行かれるだろうか。このような疑問の岐路に立ってある人は何の躊躇もなく・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
出典:青空文庫