・・・そうして、どうするのが善いとか悪いとか、そんな限定的なモラールや批判や解説を付加して説明するにはあまりに広大無辺な意味をもったものである。それをいいかげんなほんの一面的なやぶにらみの注解をつけて片付けてしまうのではせっかくのおとぎ話も全く台・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・そうだとすると、震源の位地を一小区域に限定する事はおそらく絶望でありまた無意味であろう。観測材料の選み方によって色々の震源に到達するはむしろ当然の事ではあるまいか。今回地震の本当の意味の震源を知るためには今後専門学者のゆっくり落着いた永い間・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 一 ある自然現象の科学的予報と云えば、その現象を限定すべき原因条件を知りて、該現象の起ると否とを定め、またその起り方を推測する事なり。これは如何なる場合に如何なる程度まで可能なりや。この問題が直ちにまた一般・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・もっともこうなると自然に書物の種類にある限定を生じるに相違ないが、それでもかまわないと思うのである。少なくも科学や技術方面の書物だけでもさし当たってそうしてほしいと思う。国立図書館といったようなものと少なくも同等な機関として必要なものであり・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・同時にその言葉の内容が特殊な分化と限定を受ける。その分化され限定された内容が詩形に付随して伝統化し固定する傾向をもつのは自然の勢いである。さらばこそ万葉古今の語彙は大正昭和の今日それを短歌俳句に用いてもその内容において古来のそれとの連関を失・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・新物理学の考え方がいろいろな点で古典的物理学の常識に融合しないように感ずるのは、畢竟古典的物理学がただ自然界の半面だけを特殊な視野の限定されためがねで見ていたために過ぎないのであって、そのやぶにらみの一例としては、私がここで特に声を大きくし・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・フックの方則、ボイルの方則などのように適用の範囲の明白に限定されているものもあり、重力の方則、クーロンの方則のごときよほど普遍的なものもある。近似的の方則をどこまでも適用せんとして失敗し、「理論と実際の齟齬」という標語を真向にかざして学者を・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ことにそれが作者のある特別な政治的社会的の意見を表明する手段として使用されている場合には、その客観的真実性は著しく限定されて、むしろ一つの標本としての価値に堕落しやすいように思われる。しかしその作者が優れた作者であれば、自然にそこに時代や階・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・観客はかなりな距離にあって、視角の限定されたスクリーンに対しているから、空間の深さの判断の正確さは始めから断念してかかっている。従って音の出る場所がその音に相当する視像と少しちがった方向と距離とにあってもたいして苦にならない。しかし物を言っ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・二種の高さの音をそれぞれに取り離して全く別々に聞くだけならば、振動数がかなりちがってもたいしてちがった感じの違いは起こらないのが、二つの音を相次いで聞くときに始めて甲乙二音の音程差に対して特別な限定が生じ、そこからいわゆる音階が生まれて来る・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫