・・・その効験の著しきは「モルヒネ」の劇痛におけるが如きものあらんといえども、今年今月の農工商をふるわしめんとて、にわかにその教育の組織を左右すればとて、何の効を奏すべきや。またあるいは天下の人心が頑冥固陋なり活溌軽躁なりとて、その頑冥軽躁の今日・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒中これに施してその効験は翌年の春夏に見るべきのみ。 いま人心は草木の如く、教育は肥料の如し。この人心に教育を施して、その効験三日に見るべきか。いわく、否なり。三冬の育・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 人間処世の権理に公私の区別ありて、先ず私権を全うして然る後、公権の談に及ぶべしとの次第は、かつて『時事新報』の紙上にも記したることなるが、そもそもこの私権の思想の発生する事情は種々様々なれども、最第一の原因は、本人の自ら信じ自ら重んず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・人類の発展と幸福のために、真に貢献する学問と学問そのものの尊重の精神が確立されなければならない。このことは、民族の理性を守る仕事であり、人権擁護のためのたたかいのまぎれもない一面である。〔一九五〇年十二月〕・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・――インガは彼女のよいもちものをドミトリーに、ドミトリーはインガにない力を、互に与えあって、益々豊富な新しい社会への貢献をする望みだった。その重大な意味をドミトリーはどうも理解しない。「俺は知ってるよ、お前がグラフィーラでないってことは・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ファーブルの昆虫記は卓抜精緻な観察で科学上多くの貢献をしているし、縦横に擬人化したその描写は、それらの本が出た十九世紀の末から今日まで、そしてなおこれからもあらゆる年齢と社会層の読者を魅してゆくだろうと思われる。けれども文化の感覚が成長して・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・困難な仕事であろうが、文化貢献の為乗り出して下さる出版社がないものだろうか。〔一九三六年六月〕 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
・・・ 魯迅は一九三五年ごろに、中国の新しい文化の発展のために多大の貢献をした一つの仕事として、ケーテ・コルヴィッツの作品集を刊行した。その中国版のケーテの作品集には、ケーテの国際的な女友達の一人であるアグネス・スメドレイの序文がつけられた。・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・その実名小説も多くは、高見順をして「これはなかなか死ねないぞ」と苦笑させるほどの人生的文学的程度である。 こんにち、文壇の作家たちが、めいめいの特色となっている角度やニュアンスを失うまいとしながら社会の現実観と自己の創作方法との間に生じ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ この頃の小説の題は皆一凝りも二凝りもこって居ます。高見順の「起承転々」「見たざま」村山知義の「獣神」、高見順は説話体というものの親玉なり。それから「物慾」とか「情慾」とかそういう傾向の。高見順という作家は「毅然たる荒廃」を主張している・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫