・・・同僚も今後の交際は御免を蒙るのにきまっている。常子も――おお、「弱きものよ汝の名は女なり」! 常子も恐らくはこの例に洩れず、馬の脚などになった男を御亭主に持ってはいないであろう。――半三郎はこう考えるたびに、どうしても彼の脚だけは隠さなけれ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・とせんか、さらに光彩陸離たるべし。 問 しからばその理由は如何? 答 我ら河童はいかなる芸術にも河童を求むること痛切なればなり。 会長ペック氏はこの時にあたり、我ら十七名の会員にこは心霊学協会の臨時調査会にして合評会にあらざるを・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・彼の構想力、彼の性格解剖、彼のペエソス、――それは勿論彼の作品に、光彩を与えているのに相違ない。しかしわたしはそれらの背後に、もう一つ、――いや、それよりも遥かに意味の深い、興味のある特色を指摘したい。その特色とは何であるか? それは道徳的・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・ご家蔵の諸宝もこの後は、一段と光彩を添えることでしょう」 しかし王氏はこの言葉を聞いても、やはり顔の憂色が、ますます深くなるばかりです。 その時もし廉州先生が、遅れ馳せにでも来なかったなら、我々はさらに気まずい思いをさせられたに違い・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・猿を先祖とすることはエホバの息吹きのかかった土、――アダムを先祖とすることよりも、光彩に富んだ信念ではない。しかも今人は悉こう云う信念に安んじている。 これは進化論ばかりではない。地球は円いと云うことさえ、ほんとうに知っているものは少数・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・僕の記憶を信ずるとすれば、新聞は皆兄さんの自殺したのもこの後妻に来た奥さんに責任のあるように書いていました。この奥さんの年をとっているのもあるいはそんなためではないでしょうか? 僕はまだ五十を越していないのに髪の白い奥さんを見る度にどうもそ・・・ 芥川竜之介 「手紙」
・・・この相撲を見ていた僕の叔母――僕の母の妹であり、僕の父の後妻だった叔母は二三度僕に目くばせをした。僕は僕の父と揉み合った後、わざと仰向けに倒れてしまった。が、もしあの時に負けなかったとすれば、僕の父は必ず僕にも掴みかからずにはいなかったであ・・・ 芥川竜之介 「点鬼簿」
・・・永年の交際において、私は氏がその任務をはずかしめるような人ではないと信じますから一言します。 けれどもこれら巨細にわたった施設に関しては、札幌農科大学経済部に依頼し、具体案を作製してもらうことになっていますから、それができ上がった時、諸・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・盆くれのつかいもの、お交際の義理ごとに、友禅も白地も、羽二重、縮緬、反ものは残らず払われます。実家へは黙っておりますけれど、箪笥も大抵空なんです。――…………………それで主人は、詩をつくり、歌を読み、脚本などを書いて投書をするのが仕事です。・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 私の小屋と真向の……金持は焼けないね……しもた屋の後妻で、町中の意地悪が――今時はもう影もないが、――それその時飛んで来た、燕の羽の形に後を刎ねた、橋髷とかいうのを小さくのっけたのが、門の敷石に出て来て立って、おなじように箔屋の前を熟・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
出典:青空文庫