・・・が読者にあたえる印象の総和は、錯雑と神経衰弱的亢奮と個人的な激情の爆発とである。行文のあるところは居心持わるく作者の軽佻さえ感ぜしめる。これはどこから来るのであろうか。「子供の世界」という小市民的な一般観念で、階級性ぬきに子供の生活を「・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・も或る報告文学の試みとして注意をあつめた。 本年七月蘆溝橋の事件に端を発した日支事変は、秋以後、前線に赴いてのルポルタージュとして、文学に直接反映をもって来た。林房雄、尾崎士郎、榊山潤の諸作家が前線近く赴いて、故国へ送ったルポルタージュ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 私どもはこのような行文を読んで、これはまことに正宗白鳥の小説の中の文章ではないのかと、おどろいてそれが横光の作中にあることを考えなおす次第である。 久内はかかる気持で生きつつある男なのである。このように沈下した精神状態は、心理学の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・級にまで急進思想がひろがっていたこと、及び、プロレタリア文学運動の先進者が勤労階級出身であるとしても一面にどのような歴史性をもって立ち現れているのであるかという現実の複雑な内容をも、はっきりと、作品の行文の間に読みとることが出来るのである。・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
・・・の作者達の行文の間に漲っている。魯迅によって切りひらかれた近代中国の優秀な文学は、そうした意味で、生粋の人民の文学の要素をもっている。 アメリカの文学は、ブルジョア民主社会内の個性と理性とが発展し得る道行きの様々な経過と摩擦とを鋭く反映・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・構想雄大で行文はいわゆるプロレタリア的でない清新の美に満ちていると、さながらその社会的根拠とともに創造性をも喪失したブルジョア文学の陣営内に一人の精力的な味方を発見し得たかのような喝采を送った。 わがプロレタリア作家同盟および文学に関心・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・母が幼年及び少女時代を過した築地向島時代の思い出には、明治開化期前後の東京生活が髣髴として興味ふかく初霜には若かりし父母のつつましい日常の姿が簡素な行文の間に愛らしく子等の前に輝いている。 頁数その他の関係から、この一冊には母が書きのこ・・・ 宮本百合子 「葭の影にそえて」
・・・それ故に、死なすという単一な軍事目的のためには嫡出子も私生子も区別はないという根拠から私生子の差別を削除したのであった。公文書その他に、士族、平民と書くことを廃止にした。この理由も同じ由来をもっている。 これは民法における女子の不平等の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・これら新感覚派なるものの感覚を触発する対象は、勿論、行文の語彙と詩とリズムとからであるは云うまでもない。が、そればかりからでは勿論ない。時にはテーマの屈折角度から、時には黙々たる行と行との飛躍の度から、時には筋の進行推移の逆送、反覆、速力か・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫