・・・…… 古老の伝える所によると、前田家では斉広以後、斉泰も、慶寧も、煙管は皆真鍮のものを用いたそうである、事によると、これは、金無垢の煙管に懲りた斉広が、子孫に遺誡でも垂れた結果かも知れない。・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱」とこれと、来月出す「明君」とは皆、同じ人の集めてくれた材料である。○同人は皆、非常に自信家のように思う人があるが、それは大ちがいだ。ほかの作家の書いたものに、帽・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・ こんな相談は、故老に限ると思って呼んだ。どうだろう。万一の事があるとなら、あえて宮浜の児一人でない。……どれも大事な小児たち――その過失で、私が学校を止めるまでも、地じだんだを踏んでなりと直ぐに生徒を帰したい。が、何でもない事のようで・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・媼しずかに顧みて、 やれ、虎狼より漏るが恐しや。 と呟きぬ。雨は柿の実の落つるがごとく、天井なき屋根を漏るなりけり。狼うなだれて去れり、となり。 世の中、米は高価にて、お犬も人の恐れざりしか。明治四十三年九月・十一月・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・憖いに早まって虎狼のような日傭兵の手に掛ろうより、其方が好い。もう好加減に通りそうなもの、何を愚頭々々しているのかと、一刻千秋の思い。死骸の臭気は些も薄らいだではないけれど、それすら忘れていた位。 不意に橋の上に味方の騎兵が顕れた。藍色・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ おしかは、人間は学問をすると健康を害するというような固陋な考えを持っていた。清三が小学を卒業した時、身体が第一だから中学へなどやらずに、百姓をさして一家を立てさせようと主張した。しかし為吉は、これからさき、五六反の田畑を持った百姓では・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声、狼毒、狼狠、狼顧、中山狼、狼、狼貪、狼竄、狼藉、狼戻、狼狽、狼疾、狼煙など、めでたきは一つもなき唐山のためし、いとおかし。いわゆる御狗・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・批評家じゃ無い。古老の曰く、「心中の敵、最も恐るべし。」私の小説が、まだ下手くそで伸び切らぬのは、私の心中に、やっぱり濁ったものがあるからだ。 太宰治 「鬱屈禍」
・・・「いかって、とくした人ないと古老のことばにもある。じたばた十年、二十年あがいて、古老のシンプリシティの網の中。はははは。そうして、ふり仮名つけたのは?」「はい。すこし、よすぎた文章ゆえ、わざと傷つけました。きざっぽく、どうしても子供・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ これに聯関して、やはり土佐で古老から聞いたことであるが、暴風の風力が最も劇烈な場合には空中を光り物が飛行する、それを「ひだつ」と名づけるという話であった。これも何かの錯覚であるかどうか信用の出来る資料がないから不明である。しかし自分の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫