-
・・・ それは確に幸福な婚姻の日を、早めるに役立つことになるだろう。 秋三は着いた。不足な賃銀を握った馬丁のように荒々しく安次を曳いて、「勘次、勘次。」と呼びながら這入って来た。勘次は黙って出迎えた。「これ勘公、逃げさらすなよ。」・・・
横光利一
「南北」
-
・・・その彼らはまた処女の神聖を神にささげると称して神殿を婚姻の床に代用する。性欲の神秘を神に帰するがゆえに、また神殿は娼婦の家ともなる。パウロはそれを自分の眼で見た。そうして「いたく心を痛め」た。桂の愛らしい緑や微風にそよぐプラタアネの若葉に取・・・
和辻哲郎
「『偶像再興』序言」