・・・ 三間幅――並木の道は、真白にキラキラと太陽に光って、ごろた石は炎を噴く……両側の松は梢から、枝から、おのが影をおのが幹にのみ這わせつつ、真黒な蛇の形を畝らす。 雲白く、秀でたる白根が岳の頂に、四時の雪はありながら、田は乾き、畠は割・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ 列車の窓とすれすれにごろた石の山腹がある。ひる頃外を見ても、やっぱりそれと瓜二つなごろた石の山腹が窓をかすめて行く。 ――退屈な景色! ――ベザイスが、実はあんたのところの同じような山には、もうあきあきしてるんですと云ったわけ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・に撮されているようなごろた石を鋪道にしたような裏通りまで、カフェーの前あたりはもとより往来のあっちからこっち側へと一列ながら花電球も吊るされ、青い葉を飾った音楽師の台が一つの通りに一つはつくられて、街という街は踊る男女の群集で溢れる。 ・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・一雨で崩れそうなごろた石の石垣について曲り、道でないような土産屋の庇下を抜けると、一方は崖、一方に川の流れている処へ出た。川岸に数軒ひどい破屋があって、一軒では往来から手の届く板の間に黄色い泥のようなもので拵えた恵比寿がいくつも乾してあった・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・炉の前にフイゴが放り出されていて、床は不規則なごろた石をうずめてある。一つ一つ色ちがいなその石の面を飛びわたって、父は隙間もなく日本字を埋めている。藻塩草 150 とかかれているところは窓のカーテンであり、無声と署名するのに、わざわざマント・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・裏通りなど歩くと、その木端屋根の上に、大きなごろた石を載せた家々もある。木曾を汽車で通ると、木曾川の岸に低く侘しく住む人間の家々の屋根が、やっぱりこんな風だ。早春そこを通ったので雪解の河原、その河原に茂っている多分河楊だろう細かく春浅い枝を・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・低い丘の起伏の間をぬっているその道は、土ほこりが深くてぽくぽくのなかにごろた石がどっさりころがっている。左手は、色づきはじめた灌木におおわれた浅い谷間になっていた。 ひろ子の歩きつきに、何となしおとなしいような懇ろなような様子があるのは・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 大通りを左に曲り、暗いごろた石道を数丁行って御者は外側を青く塗った一軒の家の前へ馬車を止めた。彼は、しきりに外側から家を眺めたのち御者台の上でうなった。 ――畜生! どこへか引越しちまった。 往来に向いた低い明るい窓の内で、ル・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫