・・・そういう訳だから、魔法の談などといっても際限のないことである。 我邦での魔法の歴史を一瞥して見よう。先ず上古において厭勝の術があった。この「まじなう」という「まじ」という語は、世界において分布区域の甚だ広い語で、我国においてもラテンやゼ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・そういうしたくに際限はなかろうが、「娘一人を結婚させるとなると、どうしても千円の金はかかるよ。」と、かつて旧友の一人が私にその話をして聞かせたこともある。そこに私はおおよその見当をつけて、そんなに余分な金までも娘のために用意する必要はあるま・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・公園や、広場や大きな交通路、その他いろいろの地割をきめた上、こみ入ったところには耐火的のたて物以外にはたてさせないように規定して、だんだんに再建築にかかるのですが、帝都として、すっかりととのった東京が再現するまでには、少くとも十年以上はかか・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・スバーは、際限のない自分の寂しささえ超えて恍惚として仕舞いました。彼女の心は、堪え難い程苦しく重い、而も、云うことは出来ないのです。口には云わず心配の多い母、自然の足許に、此も無言の裡に悩む一人の娘が、いつまでも立っていました。 彼女を・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・おれにだけ、無際限にたよっている。ひとから、なんと言われたっていい。おれは、この女とわかれる。 夜明けが近くなって来た。空が白くなりはじめたのである。かず枝も、だんだんおとなしくなって来た。朝霧が、もやもや木立に充満している。 単純・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・つづいて、ちかくの扉が、ばたんばたん、ばたんばたん、十も二十も、際限なく開閉。私は、ごみっぽい雑巾で顔をさかさに撫でられたような思いがした。みな寝しずまったころ、三十歳くらいのヘロインは、ランタアンさげて腐りかけた廊下の板をぱたぱた歩きまわ・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・娶った細君の老いてしまったことや、子供の多いことや、自分の生活の荒涼としていることや、時勢におくれて将来に発達の見込みのないことや、いろいろなことが乱れた糸のように縺れ合って、こんがらがって、ほとんど際限がない。ふと、その勤めている某雑誌社・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来るが、後者の方では二度と同じ結果を出すまでに何度試みを繰返さなければならないかを、確実に予言することが出来ない。 それだからヨーヨーは生真面目で・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・めいめいの画家の好む顔の線がそのままに袖のふくらみの線に再現されているのを見いだしてひとりでうなずかれる場合がかなりにある。この現象は古い時代のものほどに著しいような気がする。ただ写楽の人物の顔の輪郭だけは、よほど写実的に進歩した複雑さを示・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・そうしてカメラの対物鏡は観客の目の代理者となって自由自在に空間中を移動し、任意な距離から任意な視角で、なおその上に任意な視野の広さの制限を加えて対象を観察しこれを再現する。従って観客はもはや傍観者ではなくてみずからその場面の中に侵入し没入し・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫