・・・ * * * * * 一週間たった後、最高点を採った答案は下に掲げる通りである。「正に器用には書いている。が、畢竟それだけだ。」 親子 親は子供を養育するのに適しているかどうかは疑問である。成種牛馬は親・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・一年前までは唯一実在だの最高善だのと云う語に食傷していたのだから。B 今じゃあアートマンと云う語さえ忘れかけているぜ。A 僕もとうに「ウパニシャッドの哲学よ、さようなら」さ。B あの時分はよく生だの死だのと云う事を真面目になって・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・モオパッサンの『女の一生』でも載せて見れば、すぐ針が最高価値を指しますからな。」「それだけですか。」「それだけです。」 僕は黙ってしまった。少々、角顋の頭が、没論理に出来上っているような気がしたからである。が、また、別な疑問が起・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・「自動車が持つ、ありたけの音を、最高度でやッつけたまえ。」 と記者が云った。 運転手は踊躍した。もの凄まじい爆音を立てると、さすがに驚いたように草が騒いだ。たちまち道を一飛びに、鼠は海へ飛んで、赤島に向いて、碧色の波に乗った。・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
震火で灰となった記念物の中に史蹟というのは仰山だが、焼けてしまって惜まれる小さな遺跡や建物がある。淡島寒月の向島の旧庵の如きその一つである。今ではその跡にバラック住いをして旧廬の再興を志ざしているが、再興されても先代の椿岳の手沢の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・徳を累するどころか、この家庭の破綻を処理した沼南の善後策は恐らく沼南の一生を通ずる美徳の最高発現であったろう。五 沼南のインコ夫人の極彩色は番町界隈や基督教界で誰知らぬものはなかった。羽子板の押絵が抜け出したようで余り目に立・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・議会の開けるまで惰眠を貪るべく余儀なくされた末広鉄腸、矢野竜渓、尾崎咢堂等諸氏の浪花節然たる所謂政治小説が最高文学として尊敬され、ジュール・ベルネの科学小説が所謂新文芸として当時の最もハイカラなる読者に款待やされていた。 二十五年前には・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・為さない、聖書は旧約と新約とに分れて神の約束の書である、而して神の約束は主として来世に係わる約束である、聖書は約束附きの奨励である、慰藉である、警告である、人はイエスの山上の垂訓を称して「人類の有する最高道徳」と云うも、然し是れとても亦来世・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・もちろん海抜六百尺をもって最高点となすユトランドにおいてはわが邦のごとき山国におけるごとく洪水の害を見ることはありません。しかしその比較的に少きこの害すらダルガスの事業によって除かれたのであります。 かくのごとくにしてユトランドの全州は・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・相懸り法は当時東京方棋師が実戦的にも理論的にも一応の完成を示した平手将棋の定跡として、最高権威のものであったが、現在はもはやこの相懸り定跡は流行せず、若手棋師は相懸り以外の戦法の発見に、絶えず努力して、対局のたびに新手を応用している。が、六・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
出典:青空文庫