・・・ 政府は東京や、その他の被害地を再興するために復興院という役所を設けました。東京市のごときは、まず根本に、火事のさいに多くの人がひなんし得る、大公園や、広場や大きな交通路、その他いろいろの地割をきめた上、こみ入ったところには耐火的のたて・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ チベリウス・グラックスは、国のために任に赴いた時、羅馬最高位の人であったのに、一日に唯の五文半しか支給せられなかった。」 しかし、そのような諸先輩のいろいろまちまちの論は、いずれもこの「青ヶ島大概記」に於てだけは、当るといえど・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 人生の最高の栄冠。 皮肉でも何でも無く、まさしく、うるわしい風景ではあるが、ちょっと待て。 私の空想の展開は、その時にわかに中断せられ、へんな考えが頭脳をかすめた。家庭の幸福。誰がそれを望まぬ人があろうか。私は、ふざけて言って・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・もっとも伊吹以北の峰つづきには、やはり千メートル以上の最高点がいくつかあるから、富士のような孤立した感じはないに相違ない。 問題の句を味わうために、私の知りたいと思った事は、冬季伊吹山で雨や雪の降る日がどれくらい多いかという事であった。・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
虫の中でも人間に評判のよくないものの随一は蛆である。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮を意味するエピセットである。これはかれらが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的には蜂の子やまた蚕とも、それほどひどくちがって特別・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・たとえば五穀の収穫や沿海の漁獲や採鉱冶金の業に関しては農林省管下にそれぞれの試験場や調査所などがあって「科学的政道」の一端を行なっており、疫病流行に関しては伝染病研究所や衛生試験所やその他いろいろの施設があり、風水旱害に関しても気象台や関係・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・曰ク藍染町、曰ク清水町、曰ク八重垣町等ハ僉廓内ニシテ再興以来ノ新巷ナリ。爾シテ花街ハ其ノ三分ノ一ニ居ル。昔日ハ即根津権現ノ社内ニシテ而モ久古ノ柳巷ナリ。卒ニ天保ノ改革ニ当ツテ永ク廃斥セラル。然レドモ猶有縁ノ地タルヲモツテ、吉原回禄ノ災ニ罹ル・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ かつてわたくしはこの時分の俗曲演劇等の事を論評した時明治十年前後の時代を以て江戸文芸再興の期となしたが、今向島桜花のことを陳るに及んで更にまたその感がある。 明治年間向島の地を愛してここに林泉を経営し邸宅を築造した者は尠くない。思・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・この建築全体の法式はつまり人間の有する敬虔崇拝の感情を出来得べき限りの最高度まで興奮させようと企てたものでしかも立派にその目的に成功した大なる美術的傑作品である。紅雨は生涯忘れない美的感激の極度を経験したと信ずる巴里の有名なる建築物・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・しかるに先刻から津田君の容子を見ると、何だかこの幽霊なる者が余の知らぬ間に再興されたようにもある。先刻机の上にある書物は何かと尋ねた時にも幽霊の書物だとか答えたと記憶する。とにかく損はない事だ。忙がしい余に取ってはこんな機会はまたとあるまい・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫