・・・自分たちの思いつきに対してひろい実際の視野から再考してみる必要がある。対外的の意味で何かやらなければならないという場合、とりつきやすいのは目の前の見た目に立つ趣向である。浦和からの娘子行進にしろ、目に立つことでは成功したろう。けれども、そこ・・・ 宮本百合子 「女の行進」
今日、私たちの精神には、人間性の復活と芸術再興の欲求がつよくおこっている。日本の未来のために、それは重大な関係をもっているし、私たち日本人の一人一人が、人間として充実した自分をとりもどすためにも重大な問題である。 けれ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ファシズムへのすりかえは、おどろくばかりである。ファシズム再興のあらゆる機会は、あらゆる場面で民主的外見によそおわれている。民主的という言葉は国の内外のファシストによって考えられ得る限り、あり得るかぎりの欺瞞性でつかわれているのである。・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・その活動の最高頂は常に深夜に定っていた。彼の肉体が毛布の中で自身の温度のために膨張する。彼の田虫は分裂する。彼の爪は痒さに従って活動する。すると、ますます活動するのは田虫であった。ナポレオンの爪は彼の強烈な意志のままに暴力を振って対抗した。・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・何ぜかといえば、この宿場の猫背の馭者は、まだその日、誰も手をつけない蒸し立ての饅頭に初手をつけるということが、それほどの潔癖から長い年月の間、独身で暮さねばならなかったという彼のその日その日の、最高の慰めとなっていたのであったから。・・・ 横光利一 「蠅」
・・・それは当時の予にとって人間生活の最高の階段であった。そうしてかくのごとき気分と思想とが漸次近代偶像破壊者の模倣に堕して行ったことには、ついに思い及ぶところがなかった。 予は当時を追想して烈しい羞恥を覚える。しかし必ずしも悔いはしない。浅・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・偶像は破壊せられなくてはならぬ。しかし偶像そのものは依然としてその象徴的生命を失わない。彼らにとって有害なるものも、その真の効用を解する他のものにとっては有益で有り得る。偶像再興が生活にとって意義あるはそのためである。二 文・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・彼らの知る所は、ただそれが、無限の力と最高の権威とを有する仏の姿だという事である。超人間的な神秘な力をもって人間を救い人間に慈悲を垂れる菩薩の姿だということである。そうして彼らは、自分を圧倒する激しい感激によって、その知識の偽りでないことを・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ダーラの美術は、三世紀の中ごろクシャーナ王朝の滅亡とともにいったん中絶し、一世紀余を経て、四世紀の末葉にキダーラの率いるクシャーナ族がガンダーラ地方に勢力を得るに及んで、今度は塑像を主とする美術として再興し、初期よりずっと優れた作品を作り出・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫