・・・あの時邪魔の無い所で、久しく御一しょにいますうちに、あなたの人にすぐれていらっしゃること、珍らしい才子でいらっしゃること、何かなさるのに思い切って大胆に手をお下しになることなんぞが、わたくしにはよく分かりましたので、わたくしはあなたをえらい・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・華族といや大そうなようだが引導一つ渡されりャ華族様も平民様もありゃアしない。妻子珍宝及王位、臨命終時不随者というので御釈迦様はすました者だけれど、なかなかそうは覚悟しても居ないから凡夫の御台様や御姫様はさぞ泣きどおしで居られるであろう。可哀・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ デビスというのは、ご存知の方もありましょうが、私たちの派のまあ長老です、ビジテリアン月報の主筆で、今度の大祭では祭司長になった人であります。そこで、私たちは、俄かに元気がついて、まるで一息にその峠をかけ下りました。トルコ人たちは脚が長・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・土民兵士の日常生活、彼等の白い被衣をかぶった妻子たちとの暮しぶり等は一つも画面に取り入れられていない。ただそこには調練と沙漠の行軍と描き出されてはいない敵との交戦があるだけである。これらの描写を通して、ルドヴィッチが最後にクリスチアーナに向・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・殉死する本人や親兄弟妻子は言うまでもなく、なんの由縁もないものでも、京都から来るお針医と江戸から下る御上使との接待の用意なんぞはうわの空でしていて、ただ殉死のことばかり思っている。例年簷に葺く端午の菖蒲も摘まず、ましてや初幟の祝をする子のあ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・これは筆を執る人の間で唱えたのであるが、世間のものもそれに応じて、漫りに予を諸才子の中に算えるようになって居た。姑く今数えた人の上だけを言って見ように、いずれも皆文を以て業として居る人々であって、僅に四迷が官吏になって居り、逍遥が学校の教員・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・めて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀も総て虚礼なるべし、我等この度仰を受・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・めて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀も総て虚礼なるべし、我等この度仰を受・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・客は宰相令狐綯の家の公子で令狐※ 参照 其一 魚玄機三水小牘 南部新書太平広記 北夢瑣言続談助 唐才子伝唐詩紀事 全唐詩全唐詩話 ・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・そっくりの美男になって、今文尚書二十九篇で天下を治めようと言った才子の棟蔵である。惜しいことには、二十二になった年の夏、暴瀉で亡くなった。 中一年おいて、仲平夫婦は一時上邸の長屋に入っていて、番町袖振坂に転居した。その冬お佐代さんが三十・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫