・・・二つの監房に二十何人かの男が詰っているがそれらはスリ、かっぱらい、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主なのだ。 看守は、雑役の働く手先につれて彼方此方しながら、「この一二年、めっきり留置場の客種も下ったなア」と、感慨ありげに云った。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・一家が詐欺にかかりそうになったとき、それをふせいだ母の機転、娘のかしこさがほめられるなら、人民全体の未来が国際的なおそろしい私慾の鍋にうちこまれようとするとき、それをふせぐ婦人たちの強い発言がどうして無視されていいだろう。わたしたちが望んで・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・日本の十数万人の旧治安維持法の被害者はもちろん、涜職、詐欺、窃盗、日本の法律によってとりしらべられたすべての人々で、刑事や検事からこの言葉をきかされなかった者はおそらく一人もないだろう。法学博士で大臣だった三土忠造でさえ、一九二九年か三〇年・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・真の幸福や正義が、瞬間的な、或いは詐偽的な目前の方便で支配され、されるべきものだと思っている事は、恐ろしいと思う。 如何ほど聖純な祈願も、祈願する者は、私共である。外の何物でもない。そして又、其祈願が如何程失墜したとしても結局は、其祈願・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・その結果工場の資材を持出して売ること、そういうもののブローカーをすること、盗んだ資材で、例えばラジオを組立てたり、時計を一寸修繕したりして、それで又金を儲けること、窃盗や詐欺が大変に殖え始めた。世間の注目はこのようにして始まった青少年の生活・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・多数の人を陥れた詐偽師を、私が一見して看破したことは度々ある。 これに反して義務心の闕けた人、amoral な人、世間で当にならぬと云う人でも、私と対座して赤裸々に意志を発表すれば、私は愉快を感ずる。私は年久しくそう云う人と相忤わずに往・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・窃盗をする。詐偽をする。強盗もする。そのくせなかなかよい奴であった。女房にはひどく可哀がられていた。女房はもとけちな女中奉公をしていたもので十七になるまでは貧乏な人達を主人にして勤めたのだ。 ある日曜日に暇を貰って出て歩くついでに、女房・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・人の噂にはいろいろの詐偽もまじわるものじゃ。軽々しく信ければ後に悔ゆることもあろうぞ」 言いきって母は返辞を待皃に忍藻の顔を見つめるので忍藻も仕方なさそうに、挨拶したが、それもわずかに一言だ。「さもそうず」 母もおぼつかない挨拶・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫