・・・ この条項を備えたる人にして始めて、この条項中に差等をつける事を考えてもよいと思う。人力も人を載せる。電車も人も載せる。両者を知ったものが始めて両者の利害長短を比較するの権利を享ける。中学の課目は数においてきまっている。時間の多少は一様・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・この四つのうちに、重要の度からして差等の点数をつけて見ろと云われた時に、何人もこれをあえてする事はできないはずと思います。もしあるとすれば答案を調べずに点数をつける乱暴な教員と同じもので、言語道断の不心得であります。ただ吾は時勢の影響を受け・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・先ず私たちは時間の合間合間に砂糖わりの豌豆豆を買って来て教場の中で食べる。その豌豆豆が残るとその残った豌豆豆を先生の机の抽斗の中に入れて置く。歴史の先生に長沢市蔵という人がいる。われわれがこれを渾名してカッパードシヤといっている。何故カッパ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・もっともあっちでは塩を入れて食う、我々は砂糖を入れて食う。麦の御粥みたようなもので我輩は大好だ。「ジョンソン」の字引には「オートミール」……蘇国にては人が食い英国にては馬が食うものなりとある。しかし今の英国人としては朝食にこれを用いるのが別・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
此作は、名古屋刑務所長、佐藤乙二氏の、好意によって産れ得たことを附記す。――一九二三、七、六―― 一 若し私が、次に書きつけて行くようなことを、誰かから、「それは事実かい、それとも幻想かい、・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・すこし砂糖をまぜる。ガスにかける。火をつける。ドンコたちはここまでされても落ちつきはらっている。まだなんとかなると思っているのである。しかし、火がついて、下からそろそろ熱くなって来ると、ようやく、これは一大事というように騒ぎはじめるのである・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・古今父母の情は一なり、其子の男子たると女子たるとに拘らず、其兄たり弟たり姉たり妹たるを問わず、之を愛するの情は正しく同一様にして兎の毛ほどの差等もなかる可し。左れば此至親至愛の子供の身の行末を思案し、兄弟姉妹の中、誰れか仕合せ能くして誰れか・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・おまけに堆肥小屋の裏の二きれの雲は立派に光っていますし、それにちかくの空ではひばりがまるで砂糖水のようにふるえて、すきとおった空気いっぱいやっているのです。もう誰だって胸中からもくもく湧いてくるうれしさに笑い出さないでいられるでしょうか。そ・・・ 宮沢賢治 「イーハトーボ農学校の春」
・・・「清作は、葡萄をみんなしぼりあげ 砂糖を入れて 瓶にたくさんつめこんだ。 おい、だれかあとをつづけてくれ。」「ホッホウ、ホッホウ、ホッホウ、」柏の木どもは風のような変な声をだして清作をひやかしました。 清作はもうと・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・それでもあの崖はほんとうの嫩い緑や、灰いろの芽や、樺の木の青やずいぶん立派だ。佐藤箴がとなりに並んで歩いてるな。桜羽場がまた凝灰岩を拾ったな。頬がまっ赤で髪も赭いその小さな子供。雲がきれて陽が照るしもう雨は大丈夫だ。さっきも一遍云ったの・・・ 宮沢賢治 「台川」
出典:青空文庫