・・・ ジャン・ジャック・ルソーを嘲弄し、サン・シモンをせせら笑う。何ものも信じない。幻滅を通った七月革命後のフランスの堕落とバルザック。こういう彼が現代において「秩序ある社会を希望する人々」としてカトリーヌをあげている。 そういう社会を・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・ ジャン・ジャック・ルソーを嘲弄し、サン・シモンをせせら笑う。何ものも信じない。幻滅を通った七月革命後のフランスの堕落とバルザック。こういう彼が現代において「秩序ある社会を希望する人々」としてカトリーヌをあげている。 そういう社会を・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・『何さ、わしが情けないこったと思ったのはお前さんも知らっしゃる通り、この一条の何のというわけでない、ただ嘘偽ということであったので。嘘ほど人を痛めるものはないのじゃ。』 終日かれは自分の今度の災難一件を語った。かれは途ゆく人を呼び止・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・この剃刀では亡者の頭をたくさん剃ったであろうな」と言った。住持はなんと返事をしていいかわからぬので、ひどく困った。このときから忠利は岫雲院の住持と心安くなっていたので、荼だびしょをこの寺にきめたのである。ちょうど荼の最中であった。柩の供をし・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・女中は翌日になって考えてみたが、どうもお上さんに顔を合せることが出来なくなった。そこでこの面白い若者の傍を離れないことにした。若者の方でも女が人がよくて、優しくて、美しいので、お役人の所に連れて行って夫婦にして貰った。 ツァウォツキイは・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・姉さん、もう卵がなくなってしまったのね。」 活気よく灸の姉たちの声がした。茶の間では銅壺が湯気を立てて鳴っていた。灸はまた縁側に立って暗い外を眺めていた。飛脚の提灯の火が街の方から帰って来た。びしょ濡れになった犬が首を垂れて、影のように・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・この土地はおさんにインゲボルクがいたり、小間使にエッダがいたりする。それがそういう立派な名を汚すわけでもない。 己はいつまでもエルリングの事を忘れる事が出来なかった。あの男のどこが、こんなに己の注意を惹いたのだか、己の部屋に這入っていた・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・「奥さん。あなたもやはりあちらへ、ニッツアへ御旅行ですか。」「いいえ。わたくしは国へ帰りますの。」「まだ三月ではありませんか。独逸はまだひどく寒いのです。今時分お帰りなさるようでは、あなたは御保養にいらっしゃったのではございませ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・しかしそのガラス戸は、全然日本風の引き戸で、勾欄の外側へちょうど雨戸のように繰り出すことになっていたから、冬はこの廊下がサン・ルームのようになったであろう。漱石の作品にある『硝子戸の中』はそういう仕掛けのものであった。そこで廊下から西洋風の・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・しかしそのガラス戸は、全然日本風の引き戸で、勾欄の外側へちょうど雨戸のように繰り出すことになっていたから、冬はこの廊下がサン・ルームのようになったであろう。漱石の作品にある『硝子戸の中』はそういう仕掛けのものであった。そこで廊下から西洋風の・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫