・・・全く何も比較の尺度のない一様な緑の視界はわれわれの空間に対する感官を無能にするらしい。 途中から文科のN君が一緒になった。三人のプレイが素人目に見てもそれぞれちゃんとはっきりした特徴があって面白い。クラブと球との衝撃によって生ずる音の音・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 魚や鳥のように人間の両眼の視界がそれぞれに身体の左右の側の前後に拡がっていたとしたら吾人の空間観がどんなものになるかちょっと想像することが六ヶしいという意味のことを書いたのに対して、こういう実験をすすめられたのである。しかし人間の・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・そういう時に若干の老人が昔の例を引いてやかましく云っても、例えば「市会議員」などというようなものは、そんなことは相手にしないであろう。そうしてその碑石が八重葎に埋もれた頃に、時分はよしと次の津浪がそろそろ準備されるであろう。 昔の日本人・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ただし市会議員のよこしたのだけは紙くずかごに入れるようである。また自分の住所をかかないでよこすのはこの目的を達しないといってこぼしている。ずいぶん勝手なことをいうのである。 そうかと思うとまた彼はこういう気焔を吐く事もある。「ある僕の全・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・ 蚊の撲滅 北米バルチモアーでは蚊のためにいろんな病気の流行るのを防ぐために一昨年市会で二万円ほど支出して撲滅にかかったが、結果がよかったので今年また一万円ほど支出したそうである。方法はやはり水溜りに石油を撒き、井・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・また海岸の森林が魚類に如何なる影響があるかという問題があるが、これもいわゆる魚視界と名づける光学上の問題が多少関係して来る。また塩魚類鰹節の乾燥とか寒天の凍結とかいう製造方面の事柄にも物理学応用の範囲は意外に広大であるように見受けられる。近・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・除幕式は一九二一年十一月三十日、ジェー・ジェー・タムソンの司会の下に行われた。その時のタムソンの演説はさすがにレーリー一代の仕事に対する簡潔な摘要とも見られるものである。その演説の要旨の中から、少しばかり抄録してみる。 「レーリーの全集・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・見ているうちにその視界がだんだんに上下左右にもまた前後にも広がって行き、そうしてその中にいたあるいは在った人物も風景も、それからそれへと活動写真のように変転推移して行く。もしこれをそのままに放任して行けば末はどこまで行くかわからない。しかし・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それは人類が一にならんとする傾向である。四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五六十年前の徳川の日本である。どの国もどの国も陸海軍を拡げ、税関の隔てあり、兄弟どころか敵味方、右で握手して左でポケットの短銃・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・うなずきながら、足首までしろくなったじぶんの足下をみていると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本市の市会議員選挙のことをしゃべっている。深水はからだをのりだすようにして、「そりゃええ、パトロンが出来たなら、鬼に金棒さ、うん――・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫