・・・一九四一年十一月より五ヵ月ばかり、連合軍側の戦時特派員という資格で、アフリカ、近東、ソヴェト同盟、インド、中国を訪問し、ファシズム、ナチズムに対して民主主義をまもろうとする国々のたたかいの姿を報道した。「ポーランドに生れ、フランスに眠るわが・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 視角の高い画面の構成は、全体が闊達で、自在なこころの動きがただよっている。自然の様式化と、人物の、言葉すくない、然し実に躍動している配置とは旋律的な調和を保っている。ここには、自然の好きな人間の感覚それにもまして人間の生活、種々様々な・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・が出来そうにまで、舌苔の様なものをつけさせた上にこんな事までして行ったかと思うと、あの髪のちりちりの四角ばった頭の女が憎々しく思い出される。 母が何か少し差図めいた事を云うと、すぐ変な顔をし万事のみこんで居ますと云う様な態度が、居る時か・・・ 宮本百合子 「一日」
・・・此処からは、何処にも私の懐しい自然全景を見出すことは出来ない。視覚の束縛のみではない。心がつき当る。東を向いても、西を向いても。豊かに律を感じて拡がろうとする魂が、彼方此方で遮られて、哀れな戸惑いをする。ああ、野原、野原。私の慾しいものは、・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・華やかな桃色が走馬燈のように視覚にちらつき、いかにも女性的な興奮とノンセンスな賑わいが場内を熱くする。―― 一列に舞台の上できまり、さて桜の枝をかざして横を向いたり、廻ったり、単純な振りの踊りが始ったが、その中から顔馴染を見出すのは、案・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・その視角からこそ現代への相応がとらえられるべきなのだろうと思う。 今日の文学における歴史小説の積極性と、現代小説の面白さとの相会うべき点はここらあたりのところだろう。この面白さは今日の文学の姿では、まだはっきりもしていない可能として、渾・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・「せめて、視覚でも満足させたいな。これはまあ、どうしたことだ」「――お互よ、向うでも我々を見てそう云っているに違いないわ」 陽気になりたい気持がたっぷりなのに、周囲がそれに適せず、妙にこじれそうにさえなった時であった。我々はふと・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・而も、一方は無限の視覚、聴覚、味覚を以て細かく 細かく、鋭く 鋭くと生存を分解する、又組立てる。 考 創作をするにも種々な動機があると思う。或人はイブセンの如く燃え立つ自己の正義感と理想とに・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・舞台の上の劇的感情の高揚につれ、赤い大きい風車はグルリと舞台の上でまわり出し、遺憾なく波だつ感情の動的な、視覚的表現の役に立てられている。―― メイエルホリドは昔、モスクワ芸術座にいたことがあった。そこを出て、一九〇〇年代がはじまったば・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 非常に鋭敏になった聴覚と視覚とが、かつては童話的興味の枯れることない源泉となっていた自然現象の全部のうちに、現実を基礎としたいろいろの神秘を見出し、自分自身を三人称で考える癖が増して来た。「彼女は今、太い毛糸針のように光る槇の葉を・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫