・・・今の日本の習俗に於て、仕官又は商売等、戸外百般の営業は男子の任ずる所にして、一家の内事を経営するは妻の職分なり。衣服飲食を調え家の清潔法に注意し又子供を養育する等は都て人生居家の大事、之を男子戸外の業務に比して難易軽重の別なし。故に此内事の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この点より論ずるときは、仕官もまた営業渡世の一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等を区別するものにして、官途にはおのずから抜群の人物多きがゆえに、位階勲章を得る者の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・一、官の学校は自から仕官の途に近し。ゆえに青雲の志ある者は、ことに勉強することあり。その得、三なり。一、官の学校には、教師の外に俗吏の員、必ず多く、官の財を取扱うこと、あるいは深切ならずして、費冗はなはだ多し。この金を私学校に用いな・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・終に記者と士官とが相談して二、三人ずつの総代を出して船長を責める事になった。自分も気が気でないので寐ても居られぬから弥次馬でついて往た。船長と事務長とをさんざん窮迫したけれど既往の事は仕方がない。何でも人夫どもに水を飲ませるのが悪いというの・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 芸術家の緊張、その弛緩の深さを知って居る自分は、大きい引潮の力を感じられる。 恋愛に面し、人によって、そとから、人生の明るい半面のみを感じ得る者、又消極のみを感じ得る者、消極を先ず見、後、そこを通して奇異な光明を認める者、等の差、・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・史とその発展の理論をわがものとし、先進的なイギリスの経済学を発展的に学びとり、同時に哲学の領域では、大学時代からの研究によってヘーゲルからぬけ出し、やがてフォイエルバッハからも育ち出て唯物弁証法に立つ史観と階級闘争の理論を確立していたカール・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ ペトログラード士官学校の急進的卒業生によって組織されたのだろうか? そうではなかった。グラトコフの「セメント」でわれわれがよんだように、工場の赤衛兵の発達したものであったろうか? そうでもない。ブジョンヌイという一人の農民出身で、戦術にか・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ かがんで頁をといて見たら、誰かの「唯物史観」であった。「あなたがやぶいたんですか」「いや。今帰った若い者が、もう一切こんなものは読みません、とここで誓って破いて行ったんです」「ふーむ」 暫く黙っていたが、主任は乾いた舌・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・河合、三木その他の諸氏によって、誤れる客観主義、あしき客観主義と云われたのは、機械的、反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・米国の箇人的教育は、各種の箇性を重んじながら、其の功利主義の伝統的暗示、或は宣伝に依て、箇人的気質が、公衆の不文律に順応して行ける程度の寛和、或は弛緩を加えて居ります。従って、群集の各人は、箇性の力に明かな局限を認める事に馴れ、其の局限の此・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫