・・・壁が破れても修繕はしてくれず、家賃ばかり矢の催促にくる大家に対して、借家人同盟の長屋委員会をつくろう等という考えは起さず、壁の穴へは、色紙一枚に雀一羽描いて何百円とかとる竹内栖鳳などというブル絵描きのあやしげな複製でもおとなしくはりつけて、・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・奥の空室で年かさのピオニェール少女が二人、色紙を切りぬいてボールへはりつけ、何か飾ものをこしらえていた。 ――モスクワは御承知の住宅難で、多くの子供は学校が退けてから落付いているところがないんです。親は留守だし。みんなここへ来ます。ここ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・そういう尾崎自身はワシントンで議会訪問した折、国会図書館長のラップ氏から、同図書館に陳列されている自作の和歌をしたためた色紙を示されて、ニンマリ満足した上眼づかいの写真をうつされている。 帝政ロシアの貴族たちはフランス語で話した。中国の・・・ 宮本百合子 「長寿恥あり」
・・・これは、ほんとに職場の新聞で、職場の日常的なあらゆる感想、自己批判を、洒落ででも、滑稽な色紙の切抜きをはりつけてでも、新聞からの切抜きを利用してでも、ごく自由に大判画用紙一枚ぐらいにまとめて、そのままピンで職場の壁にはりつけ、皆で読む。・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 頭を深くたれて考え込むものもあれば色紙の泣きそうな手で遠慮もなくのたらせるものもある。書かれる可(は三十一文字だか四文字だか分らないがその勢は目立ったもので有る。若君はあふれた水を流すよりもたやすくそのみちみちた心のたったほんの一寸し・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・みのえは、自分の体の中で赤いものや青いものが上になったり下になったり、銀座の夜店で売っている色紙細工の気味悪い遊び道具のように、のたくり廻るのを感じた。 油井は、喉仏から出すような声で話した。 自分が出て行く迄に油井が帰ってしまいは・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・「色紙を一枚あなたに書いてほしいという青年がいるんですが、よろしければ、一つ――」 知人の高田が梶の所へ来て、よく云われるそんな注文を梶に出した。別に稀な出来事ではなかったが、このときに限って、いつもと違う特別な興味を覚えて梶は筆を・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫