・・・翻訳しながら読むのでは疲れるから、もっとさっぱりした簡単なのがよいというので、「トゥールの司祭」を開いて読んでゆく。そして、そのうちに彼は、はたと逡巡する。「これが女性の大集会の毛細管を通じて投げ出される文句の実体である」これでは生物学の講・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・本に描かれている多くの主人、司祭は、実際のものといつもきっと、どこか違う。―― 指導してのないために乱読せざるを得なかった十三歳のゴーリキイが、現実と文学との間に在るこの微妙な一点に観察を向け得たという事実は、注目すべきことであると思う・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その時分ロシアの辺鄙な田舎の果でもツァーの官吏や司祭らが、どんな腐敗した醜聞的日常生活を営んでいたかは、その時の経験を書いた「番人」その他にはっきり現れている。 ニージュニイで再び急進的インテリゲンツィアの群に加わった。情勢は移って「資・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・彼はこの間にいやという程ツァー時代のロシア官吏、司祭等の腐敗した生活ぶりの証人となった。 ニージュニへ再び戻ってからは或る弁護士の書記の口を見つけた。二年の間ゴーリキイは書記をする傍ら同じ市の急進的なグループとつき合っていたが、その時代・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ 小姓は静かに相役の胸の上にまたがって止めを刺して、乙名の小屋へ行って仔細を話した。「即座に死ぬるはずでござりましたが、ご不審もあろうかと存じまして」と、肌を脱いで切腹しようとした。乙名が「まず待て」と言って権右衛門に告げた。権右衛門は・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・寧ろ先ず神話の結成を学問上に綺麗に洗い上げて、それに伴う信仰を、教義史体にはっきり書き、その信仰を司祭的に取り扱った機関を寺院史体にはっきり書く方が好さそうだ。そうしたってプロテスタント教がその教義史と寺院史とで毀損せられないと同じ事で、祖・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 母は十分に口が利けなくなッたので仕方なく手真似で仔細を告げ知らせた。告げ知らせると平太の顔はたちまちに色が変わッた。「さらばあのくさりかたびらの……」 言いかけたがはッと思ッて言葉を止めた。けれどこなたは聞き咎めた。「和主・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・エルリングが指さしをする方を見ると、祭服を着けた司祭の肖像が卓の上に懸かっている。それより外にはへんがくのようなものは一つも懸けてないらしかった。「あれが友達です。ホオルンベエクと云う隣村の牧師です。やはりわたしと同じように無妻で暮していま・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・す夕日の光線が樅の木を大きな篝火にして、それから枝を通して薄暗い松の大木にもたれていらっしゃる奥さまのまわりを眩く輝かさせた残りで、お着衣の辺を、狂い廻り、ついでに落葉を一と燃させて行頃何か徳蔵おじが仔細ありげに申上るのをお聞なさって、チョ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・しかし近よって子細に検すると、麦のくきや穂や葉などの、乾いてポキポキとした感じが、日本絵の具でなければ現わせない一種の確かさをもって描かれていた。黄いろい乾いた光沢なども、カンバスの上に油をもってしては、こうは現わせない。この画家の注意深い・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫