・・・そうしてその学校騒動を鎮めに掛る。その時は色々思案もやりましょう計画も要りましょう。刷新も色々ありましょう。そうして旨く往けばあの人は成功したといわれる。成功したというと、その人の遣口が刷新でもなく、改革でもなく、整理でもなくても、その結果・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・丸アミの中心にイワシの頭をくくりつけ、ラムネのびんをオモリにして沈めておけば、カニはその中に入って来る。このごろ、子供たちがよくカニとりに行き、何十匹もとって来てオカズ代りになることが多い。しかし、これはほとんど技術が入らず、釣りのうちに入・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ 然りといえども勝氏も亦人傑なり、当時幕府内部の物論を排して旗下の士の激昂を鎮め、一身を犠牲にして政府を解き、以て王政維新の成功を易くして、これが為めに人の生命を救い財産を安全ならしめたるその功徳は少なからずというべし。この点に就ては我・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・併し火葬のように無くなってもしまわず、土葬や水葬のように窮屈な深い処へ沈められるでもなし、頭から着物を沢山被っている位な積りになって人類学の参考室の壁にもたれているなども洒落ているかもしれぬ。其外に今一種のミイラというのはよく山の中の洞穴の・・・ 正岡子規 「死後」
・・・遥かの空に白雲とのみ見つるが上に兀然として現われ出でたる富士ここからもなお三千仞はあるべしと思うに更にその影を幾許の深さに沈めてささ波にちぢめよせられたるまたなくおかし。箱根駅にて午餉したたむるに皿の上に尺にも近かるべき魚一尾あり。主人誇り・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈めたという工合、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくな・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・記憶の裡に浮み上るその頃の自分が、我ながら無条件に可愛ゆいとは云いかねるような心の容を持っているために、一層気持がこじれるから、兎に角、平常、自分の小学校時代、誠之、というものは、密接な割に意識の底に沈められて来たのである。 ところが、・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・どうぞして気を鎮めたいものだと思って欲しくもない枝豆をポチポチ食べながら今度の病気の原因を話し合ったりした。不断から食の強い児で年や体のわりに大食した上に時々は見っともない様な内所事をして食べるので私が来る前頃胃拡張になって居た。胃から来た・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ 世相的、風俗的作品として、あれこれの小説が時代のただの反射として書かれていたとき、藤村は水面の波としてあらわれるそれ等の現象の底まで身を沈めて、日本のその時代を一貫する流のなかにあった寒流・暖流の交錯の悲劇にまでふれようと試みたのであ・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると、静かな光線や、落付いた家具の感じが、すっかり心を鎮め、大きく広い机の上の原稿紙が、自ら心を牽きつけ招くようにありたい。 壁に少し、愛する絵をかけ、ゆっくりと体をの・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫