・・・Si non rogas intelligo というほうが至当のようである。時の前後の観念はとにかく直感的なものであって、なんらかの自然現象に関して方則を仮定する事なしに定義を下しうべき性質のものではないと思われる。 吾人が外界の事象を・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ 古い物理書などに書いてあるとおりガラスのフィンガーボールの縁を指頭で摩擦して楽音を発せしめる場合に、指を水でぬらしておいて摩擦する事になっているが、現在の場合でも接触面が水でぬれている事が必要条件であるらしく見える。これも充分に実験を・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・おそらくそのために従来の物理学がことごとくだめになるような事はあるまいが、従来用いられた諸概念に少なからぬ変動が来るであろうと予想するのは至当であるまいか。 少なくもわれらは従来経験的事実の要求に応じて、物理学的概念の内容にたびたび改革・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・その課目の数やその按排の順は皆文部省が制定するのだから各担任の教師は委託をうけたる学問をその時間の範囲内において出来得る限りの力を尽すべきが至当と云わねばならぬ。 しかるに各課担任の教師はその学問の専門家であるがため、専門以外の部門に無・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・幼稚な智識をもった者、没分暁漢あるいは門外漢になると知らぬ事を知らないですましているのが至当であり、また本人もそのつもりで平気でいるのでしょうが、どうも処世上の便宜からそう無頓着でいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇にせよ問題の要点だけ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ どちらかといえば、深谷のほうがこんな無気味な淋しい状態からは、先に神経衰弱にかかるのが至当であるはずだった。 色の青白い、瘠せた、胸の薄い、頭の大きいのと反比例に首筋の小さい、ヒョロヒョロした深谷であった。そのうえ、なんらの事件の・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・左れば今婦人をして婦人に至当なる権利を主張せしめ、以て男女対等の秩序を成すは、旧幕府の門閥制度を廃して立憲政体の明治政府を作りたるが如し。政治に於て此大事を断行しながら人事には断行す可らざるか、我輩は其理由を見るに苦しむものなり。況して其人・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・故に女子結婚の上は夫婦共に父母を離れて別に新家を設くるこそ至当なれども、結婚の法一様ならず、家の貧富、職業の事情も同じからざれば、結婚必ず別門戸は行われ難しとするも、せめて新夫婦が竈を別にする丈けは我輩の飽くまでも主張する所なり。例えば家の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・おのずからその士人の心を殺伐に導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりといえども、この救急の政略を施す・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・またこれに驚くも至当の事なれども、論者はこれを憂い、これに驚きて、これを古に復せんと欲するか。すなわち元禄年間の士人と見を同じゅうして、元禄の忠孝世界に復古せんと欲するか。論者が、しきりに近世の著書・新聞紙等の説を厭うて、もっぱら唐虞三代の・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫