・・・ 細々とした暮しだとうなずけるほどの椙のやつれ方だったが、そんな風にしゃあしゃあと出て行く後姿を見ればやはりもとの寺田屋の娘めいて、登勢はそんな法はないと追いついてお光を連れ戻す気がふとおくれてしまった。頼りにした伊助も、じょ、じょ、浄・・・ 織田作之助 「螢」
・・・この百日紅に油蝉がいっぱいたかって、朝っから晩までしゃあしゃあ鳴くので気が狂いかけました。」 僕は思わず笑わされた。「いや、ほんとうですよ。かなわないので、こんなに髪を短くしたり、さまざまこれで苦心をしたのですよ。でも、きょうはよく・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・私は、しゃあしゃあと書けたであろう。 さっきから、煙草ばかり吸っている。「わたしは、鳥ではありませぬ。また、けものでもありませぬ。」幼い子供たちが、いつか、あわれな節をつけて、野原で歌っていた。私は家で寝ころんで聞いていたが、ふいと・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・私たちに比べると、世間の人はそれこそしゃあしゃあしたもんや。私なんかそばではらはらするようなことでも平気や」おひろは珍らしく気を吐いた。「いつ見ても何となしぱっとしないようだな」「ぱっとできるようなら、今時分こんな苦労していませんよ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫