・・・ 彼が、関係を描破した作家であるということには、未来への示唆があり、この作家が文学上のモニュメントとなってしまわず常に生きかえる力をもっていることの証左である。 何故なら、二十世紀後半の文学は、益々人間の集団と集団の関係を真実のテー・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・の主人公としてイタリー系のジョボロ少佐をアダノの市に見出していることには意味がある。ハーシーにとって、アメリカが国際的国家であることをよろこび得る理由は「ジョボロ少佐のような人々をもつ」可能があるからである。こんにちの世界で語られている崇高・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
石田小介が少佐参謀になって小倉に着任したのは六月二十四日であった。 徳山と門司との間を交通している蒸汽船から上がったのが午前三時である。地方の軍隊は送迎がなかなか手厚いことを知っていたから、石田はその頃の通常礼装という・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・「今日はおれ、大尉の肩章をつけてるけれど、本当はもう少佐なんですよ。あんまり若く見えるので、下げてるんです。」 少年に見える栖方のまだ肩章の星数を喜ぶ様子が、不自然ではなかった。それにしても、この少年が祖国の危急を救う唯一の人物だと・・・ 横光利一 「微笑」
・・・彼らは私の眼に、世界と人間とが尽くることなき享楽の対象であることの、具体的な証左であった。そのころの私には Sollen の重荷に苦しむ人が笑うべく怯懦に見えた。享楽に飽満しない人が恐ろしく貧弱に見えた。IやJやKが真に愛着に価する人間に見・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫