・・・これは後に詳説する天気予報の場合において特に著し。かくのごとき見解と期待との相違より生ずる物議は世人一般の科学的知識の向上とともに減ずるは勿論なれども、一方学者の側においても、科学者の自然に対する見方が必ずしも自明的、先験的ならざる事を十分・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ しかしこれらの空想にも、自分としては相当な物理学的実証の根拠は持っているつもりであるが、ここではこれについて詳説することのできないのを遺憾とする。ただもし、虚心に、正当な光のもとに読んでもらいさえすれば、これらの空想の中には、それらの・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 彼が雷電や地震噴火を詳説した目的は、畢竟これら現象の物質的解説によって、これらが神の所業でない事を明らかにし、同時にこれらに対する恐怖を除去するにあるらしい。これはまたそのままに現代の科学教育なるものの一つの目的であろう。しかし不幸に・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・そうして前条に詳説したようにたださまざまの景象や情緒の変転して行く間に生まれ来る「旋律」と「和声」とを聞かされるのである。従ってこの間に錯雑して現われて来るいろいろな作者のそれぞれちがった個性はなんらの破綻を生じないのみか、かえってちょうど・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そして帳簿をつけてしまうと、ばたんと掛硯の蓋をして、店の間へ行って小説本を読みだした。 その時入口の戸の開く音がして、道太が一両日前まで避けていた山田の姉らしい声がした。 道太は来たのなら来たでいいと思って観念していたが、昨日思いが・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ゾラの小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑といわず知らぬ間に水が廻って、廻り切ったと思うと、俄然鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ その後、私はねっしんに勉強して小説家になった。林茂君もたっしゃでいれば、どっかできっとえらい人間になっていてくれるだろう。いま一度逢って、あのときのお礼を言いたいものだ。 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・ 小説家春の家おぼろの当世書生気質第十四回には明治十八九年頃の大学生が矢場女を携えて、本郷駒込の草津温泉に浴せんとする時の光景が記述せられて居る。是亦当時の風俗を窺う一端となるであろう。其文に曰く、「草津とし云へば臭気も名も高き、其本元・・・ 永井荷風 「上野」
・・・て風もないのに、寒さは富士おろしの烈しく吹きあれる日よりもなお更身にしみ、火燵にあたっていながらも、下腹がしくしく痛むというような日が、一日も二日もつづくと、きまってその日の夕方近くから、待設けていた小雪が、目にもつかず音もせずに降ってくる・・・ 永井荷風 「雪の日」
出典:青空文庫