・・・それは即ち作者が作品を書くに当って何等一点の世俗的観念が入っていないと云うことを証明している。 現時文壇の批評のあるもの、作品のあるものは、作者が筆を執っている時に果して自己を偽っていないか、世俗的観念が入っていないか疑わざるを得ない。・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・知識というものは、時に虚偽を本とする社会をいかに美しく見せるかという場合に必要であろうけれど人間の良心は、知識によって証明もされなければ、また負うところもないのである。そして、純情のみが、私達の求める希望の社会を造るのであります。 知識・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・ちゃんと実例が証明してるやないか」 そして私の方に向って、「なあ、そうでっしゃろ。違いまっか。どない思いはります?」 気がつくと、前歯が一枚抜けているせいか、早口になると彼の言葉はひどく湿り気を帯びた。「…………」 私は・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・つまりそれだけ大阪弁は書きにくいということになるわけだが、同時にそれは大阪弁の変化の多さや、奥行きの深さ、間口の広さを証明していることになるのだろうと私は思っている。 たとえば、谷崎潤一郎氏の書く大阪弁、宇野浩二氏の書く大阪弁、上司小剣・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・K君の心では、その船の実体が、逆に影絵のように見えるのが、影が実体に見えることの逆説的な証明になると思ったのでしょう。「熱心ですね」 と私が言ったら、K君は笑っていました。 K君はまた、朝海の真向から昇る太陽の光で作ったのだとい・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・坂の中途に反射鏡のついた照明燈が道を照している。それを背にうけて自分の影がくっきり長く地を這っていた。マントの下に買物の包みを抱えて少し膨れた自分の影を両側の街燈が次には交互にそれを映し出した。後ろから起って来て前へ廻り、伸びて行って家の戸・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・ ハルトマンはかかる積極的な規定者がわれわれの意識の中にある証拠として、一切の行為、情操に伴う自己規定の意識、責任の感、罪の意識をあげているが、これらを合理化するためにこそ自由を証明したいのである。 ハルトマンはこれらのものから自由・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・すると、日本帝国主義は軍隊をさしむけ、飛行機、山砲、照明砲、爆弾等の精鋭な武器で蕃人たちを殺戮しようとした。その蕃人征伐に使われたのも兵士たちだ。 兵士たちは、こういう植民地の労働者を殺戮するために使われ、植民地を帝国主義ブルジョアジー・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 圭吾は、すぐに署長の証明書を持って、青森に出かけ、何事も無く勤務して終戦になってすぐ帰宅し、いまはまた夫婦仲良さそうに暮していますが、私は、あの嫁には呆れてしまいましたから、めったに圭吾の家へはまいりません。よくまあ、しかし、あんなに・・・ 太宰治 「嘘」
・・・然し、ここには近代青年の『失われたる青春に関する一片の抒情、吾々の実在環境の亡霊に関する、自己証明』があります。然し、ぼくは薄暗く、荒れ果てた広い草原です。ここかしこ日は照ってはいましょう。緑色に生々と、が、なかには菁々たる雑草が、乱雑に生・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫