・・・「いや、証明するに要るんだ。ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、百二十万年ぐらい前にできたという証拠もいろいろあがるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは風か水やがらんとした空かに見え・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・それだからこそ、私たちの生活の必要にぴったりと結びついており、生活的関心はトピックに対する最も強い興味であることを証明しているのであると思う。 食糧問題についても、私たちは随分長いこと、分不相応な苦痛と努力と七転八倒的なやりくりを経験し・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・非現実のヒロイズムで目のくらむような照明を日夜うけつづけて育った。自分としての判断。その人としての考えかた。社会生活におけるそのことの必然を認めることさえ罪悪とした軍部の圧力は、若い精神に、この苛烈な運命に面して自分としてのすべてに拘泥する・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 着物だの飾り物に、ひどい愛着を持って居るお君は、見も知らない人々が、隅から隅まで隆とした装で居るのを見るとたまらなくうらやましくなって、例えそれが、正銘まがい無しの物でも、自分の手の届くところまで、引き下げたものにして考えて居なければ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・家に帰る沢山の空馬力、自転車、労働者が照明の不充分な塵っぽい堤を陸続、互に先を越そうとしながらせっかちに通る。白鬚の渡場への下り口にさしかかると、四辺の光景は強烈に廃頽的になった。石ころ道の片側にはぎっしり曖昧な食物店などが引歪んだ屋体を並・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・民主的な文学運動の方向にたって現代文学の全野のできごとに――もとより作品にふれて、絶えず活溌な照明を働かせ、それぞれ異った作品と作品との間に発見される課題を、作家と読者との前にはっきり示して、それについて作家と読者とが、現代に生きるという角・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・の批判的――と云っても主として被抑圧的な者の立場からの照明を与えられている――リアリズムの方法によって、「二つの庭」を書けない。わたしとしては、過去のプロレタリア・リアリズムが主張した階級対立に重点をおいた枠のある方法では、階級意識のまだき・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・にしろ、女の肉体の老いと社会的野心或は金銭の慾のくみ合わせが、その本質の陳腐さにかかわらず、作者の興味をひくのだろうかと、人工的な照明の下にあやつられている「絶壁」の男女の姿を眺めたにすぎなかったと思う。ところが、不思議なことに、その作品の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ソヴキノが照明燈をもやして労働宮とそこへ向う群集を撮影している。橋の下では二艘ボートが若い女をのせ、イルミネーションのとけ込んでいる辺だけ小さく漕いでいる。 最近の二年間はすべてを変えた。ソヴェトの生産振興の為の五ヵ年計画は一一〇・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い標を屋根につけた電車が、冬は真白く氷花に覆われた並木道に青いスパークを散らしながら走る。 夕方、五時というと冬のモスク・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
出典:青空文庫