・・・家並の揃った、展望のきく間色の明るい街を、電車は額に照明鏡を立てたドクトルみたいなかっこうで走っている。 年経た、幹の太い楡の木がある。その濃い枝の下に、新聞雑誌の売店、赤い果物汁飲料のガラス瓶。 古いくり形飾を窓枠につけたロシア風・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・……じゃあ舞台監督だの、振りつけ、照明、そんな技術家は? ――舞台監督はなかなかいいよ、第一グループの劇場で六百ルーブリ、第五グループで三百ルーブリ。装置をやる美術家が二百五十ルーブリから五百ルーブリ。振りつけ、大体百ルーブリから二百五・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・また照明がなくてはならぬし、場所がなければならぬ。ラジオなら中継すれば野の中へでもみんな固まって聴くことが出来、それに今は農村に於ける集団農場が文化の中心になっている。だから集団農場の倶楽部に皆キノだのラジオが集中されて、農村で生産をすると・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ドイツの新式な電気照明装置が舞台についている。 元の廊下をゆくと、右や左にいくつもの室が並んでいる。真先に目につくのは「レーニン主義共産青年同盟」「地区委員会」「全同盟共産党・ボルシェビキ」とそれぞれ高く入口に札をかかげた部屋部屋だ。そ・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ツワイクはフーシェに個人的興味をよせすぎ、主観的な照明をあてすぎ、血の気のうすいものを書いた。バルザックが、彼の人間喜劇のところどころに隠見させているフーシェの方が、垣間見の姿ながら時代の生々しい環境のうちにあくどい存在そのままにとらえられ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・隅に大きい照明燈があっち向に立ってる。「母親の病室は同じですが……われわれは赤坊に深い注意を払っています」 赤坊室で、自分は強い印象をうけた。 ソヴェト同盟の親切な、生活的な科学的考慮が実にこまやかに行われている。性病のある母親・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・』 アウシュコルンは猛り狂って、手をあげて、唾をした、ちょうど自分の真実を証明するつもりらしくそして繰り返しいった。『全くほんとの事なんであなた、神様もご照覧あれ。全くもって、全くもって、嘘なら命でも首でも。わたしはどこまでも言い張・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・その三年目がエエリヒ・シュミット総長の下に、大学の三百年祭をする年に当ったので、秀麿も鍔の嵌まった松明を手に持って、松明行列の仲間に這入って、ベルリンの町を練って歩いた。大学にいる間、秀麿はこの期にはこれこれの講義を聴くと云うことを、精しく・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・人間が猿から出来たと云うのは、あれは事実問題で、事実として証明しようと掛かっているのだから、ヒポテジスであって、かのようにではないが、進化の根本思想はやはりかのようにだ。生類は進化するかのようにしか考えられない。僕は人間の前途に光明を見て進・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ ―――――――――――― 中山の国分寺の三門に、松明の火影が乱れて、大勢の人が籠み入って来る。先に立ったのは、白柄の薙刀を手挾んだ、山椒大夫の息子三郎である。 三郎は堂の前に立って大声に言った。「これへ参ったの・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫