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・・・……大きな建物ばかり、四方に聳立した中にこの仄白いのが、四角に暗夜を抽いた、どの窓にも光は見えず、靄の曇りで陰々としている。――場所に間違いはなかろう――大温習会、日本橋連中、と門柱に立掛けた、字のほかは真白な立看板を、白い電燈で照らしたの・・・
泉鏡花
「開扉一妖帖」
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・・・ 何の事はない、見た処、東京の低い空を、淡紅一面の紗を張って、銀の霞に包んだようだ。聳立った、洋館、高い林、森なぞは、さながら、夕日の紅を巻いた白浪の上の巌の島と云った態だ。 つい口へ出た。歯医師がと云ったがね。その時は四時過ぎです・・・
泉鏡花
「縷紅新草」