・・・仮りに如何に博学多識の学者を案内として名所見物をするとしても、その人の所説にはそれぞれ何か確かな根拠はあるかもしれないが、それらの根拠を一つ一つ批判的に厳密に調べてみても一点の疑いのないという場合はむしろ稀であろう。歴史上の遺蹟や古美術品の・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ 以上の所説は、一見はなはだしく詭弁をろうしたもののように見えるかもしれないが、もし、しばらく従来の先入観をおいて虚心に省察をめぐらすだけの閑暇を享有する読者であらば、この中におのずから多少の真の半面を含むことを承認されるであろうと信ず・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・その男の変った所説の一例を挙げると、自分が風邪を引いて熱を出したりしたとき「アンマリ御馳走を喰べ過ぎるんじゃあないですか」と云ってはにやにや笑うのであった。 御馳走を喰うと風邪を引くというのは一体どういう意味だか分からなかった。御馳走を・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 西鶴の人についてもあまりに何事も知らな過ぎるから、この際の参考のためにと思って手近にあった徳富氏著『近世日本国民史、元禄時代』を見ていると、その中に近松と西鶴との比較に関する蘇峰氏の所説があって、その一説に「西鶴のその問題を取扱うや、・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・故日下部博士が昔ある学会で文明と地震との関係を論じたあの奇抜な所説を想い出させられた。高松という処の村はずれにある或る神社で、社前の鳥居の一本の石柱は他所のと同じく東の方へ倒れているのに他の一本は全く別の向きに倒れているので、どうも可笑しい・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・また場合により実験の結果が半ばあるいは部分的に予期に合すれば、実験者たる学者はその適合せる部分だけを抽出して自己の所説を確かむれども、かくのごとき抽象的分析に慣らされざる世俗は了解に苦しむ事もあるべし。 かくのごとき困難は天然現象の場合・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それで、ただ一概に断片的な通俗科学はいかなる場合でも排斥すべきものであるかのような感を読者にいだかせるような所説に対しては、少なくも若干の付加修正を必要とするであろうと思われた。この機会についでながら付記しておく次第である。 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・と言って、自分の提出した答案の所説を述べ、「これは、なかなかうまい説明であると思う。が」と言ってちらりと自分のほうを見ながら、にこにこして「しかし、惜しい事には……」と言ってその似而非説明の大きなごまかしの穴を指摘しておいて、さて、丁寧に先・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
時の観念に関しては、哲学者の側でいろいろ昔からむつかしい議論があったようである。自分はそれらの諸説について詳しく調べてみる機会を得ないが、簡単な言葉でしかもそれ自身すでに時の概念を含んでいないような言葉で「時」に定義を下そ・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・この事はやはり前記の鉱産に関する所説と本質的に連関をもっているのである。すなわち、日本の地殻構造が細かいモザイックから成っており、他の世界の種々の部分を狭い面積内に圧縮したミニアチュアとでもいったような形態になっているためであろうと思われる・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫