・・・白くまんまるい顔で、ロイド眼鏡の奥の眼は小さくしょぼしょぼして、問題の鼻は、そういえば少し薄赤いようであったが、けれども格別、悲惨な事もなかった。からだは、ひどく、でっぷり太っている。背丈は、佐伯よりも、さらに少し低いくらいである。おしゃれ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・トヨ公は、四十ちかい横太りの、額が狭く坊主頭で、眼がわるいらしく、いつも眼のふちが赤くてしょぼしょぼしていましたが、でも、ちょっと凄味のきく風態の男でした。おかみは、はじめ僕には三十すぎのひとのように見えましたが、僕と同年だったのです。いっ・・・ 太宰治 「女類」
・・・くなって来て、おれはこんな場所ではこのように、へまであるが、出るところへ出れば相当の男なんだ、という事を示そうとして、ぎゅっと口を引締めて眥を決し、分会長殿を睨んでやったが、一向にききめがなく、ただ、しょぼしょぼと憐憫を乞うみたいな眼つきを・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・と云って眼をしょぼしょぼさせた。荒川改修工事がこの爺さんには何となく不平らしい。 この日は少し曇っていて、それでいて道路の土が乾き切っているので街道は塵が多く、川越街道の眺めが一体に濁っていた。 巣鴨から上野へと本郷通りを通るときに・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・三毛は全く食欲を失って、物憂げに目をしょぼしょぼさせながら一日背を丸くしてすわっていた。さわって見るとからだじゅうの筋肉が細かくおののいているのが感ぜられた。これは打ち捨てておいては危険だと思われたので、すぐに近所の家畜病院へ連れて行かせた・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ 汚いなりをした、眼のしょぼしょぼした干からびた婆さんと、その孫かとも見える二十歳くらいの、大きな風呂敷包の荷をさげた、手拭浴衣の襦袢を着た男が乗っていた。話の様子で察してみると、誰かこの老婆の身近い人が、川崎辺の病院にでもはいっていて・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ヘルメルトは赭ら顔で眼をしょぼしょぼさせた何となく田舎爺のような感じのする、しかしどこかなかなか喰えないような気のする先生であったが、しかしやはり一とかどのえらい学者のように思われた。マイヤーの講義はザクセン訛りがひどく「小さい」をグライン・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ その手紙が来てから六日ほどして父親はほんとうに千世子の家へ来た。 しょぼしょぼの眼をしげく眼ばたきしながら丁寧な口調でゴトゴトと話した。「家の娘も貴方様、先に二度ほど婿を取ってやりましたがはあ無縁でない、 皆落つきませんだ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 私は病弱して、病気に掛ろうものなら、それほどの病気でもなくて、すぐ、眼が落ちくぼんだり、青くしょぼしょぼになったりする、じき死んで仕舞いそうな気になるのである。 昨夜も、何となし、あつかったので、計って見ると七度七分あった。いつも・・・ 宮本百合子 「熱」
出典:青空文庫