・・・もうしまっておいたって仕様がないし、残しときゃ手拭紙にでもするんだが、それもあんまり義理が悪いようだし、お前さんに預けておくから、西宮さんに頼んで、ついでの時平田さんへ届けてもらっておくんなさいよ。ねえ小万さん、お頼み申しますよ」 小万・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・家事を司どる婦人には自から財産使用の権利あり、一品一物も随意にす可らずとは、取りも直さず内君は家の下婢なりと言うに等し。都て我輩の反対する所なり。一 女は我親の家をば続ず、舅姑の跡を継ぐ故に、我親よりもを大切に思ひ孝行を為べし。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・此辺は枝葉の議論として姑く擱き、扨婦人が夫に対して之を軽しめ侮る可らずとは至極の事にして婦人の守る可き所なれども、今の男女の間柄に於て弊害の甚しきものを矯正せんとならば、我輩は寧ろ此教訓を借用して逆に夫の方を警めんと欲する者なり。顔色言語の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 然らばすなわち論者が不平を訴うるところは、事の元素にあらずしてその枝葉にあり、政府の精神にあらずしてその外形にあること、明らかに知るべし。この枝葉・外形の事よりして双方の間に不和を生じ、改進の一元素中に意外の変を起すは、国のためにもっ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・児の戯にして論ずるに足らざるものなりといい、政事家もまた学問を蔑視して、実用に足らざる老朽の空論なりとすることならんといえども、これはいわゆる双方の偏頗論にして、公平にいえば、政事も学問もともに人事の至要にして、双方ともに一日も空しゅうすべ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 結ったって仕様のない様な気がする。 若い年頃の人が髪をおろす時の気持が思いやられる。 ピッタリと頭の地ついた少ない髪を小さくまるめた青い顔の女が、体ばっかり着ぶくれて黄色な日差しの中でマジマジと物を見つめて居る様子を考えて見る・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・大学は、英語を使用し、英語で使用される新しい大小の官僚、事務官を養成すればことたりるところという標準で組みかえられつつある。それに抵抗して日本の理性と学問、文化の自立を主張する動きは、全日本の規模で全学問の分野を包含した。生きる自由、学び、・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・後年、鴨、鳩、鶏がかなり大仕掛けに飼養された前後にも、猫と犬とは、私共の家庭に、一種の侵入者としての関係しか持たなかった。 私は、猫の美と性格のある面白さを認めはするが、好きになれない。子供のうちからこれは変らない傾向の一つである。・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ひろく知られているところのギリシアの社会は、人類の若々しい文化をはじめて花咲かせ、古典文化のつきない源泉となったが、このギリシアの繁栄と自由とは奴隷使用の上に咲きほこっていた。人口比率は一人の自由人に対して五人ぐらいの奴隷があって、その奴隷・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・単純な西洋風をまねたばかりでは活動写真の範囲を出ないし、われわれの日常生活の習慣が感情表現に加えている長年の制約を、演技的に止揚することは大切な努力の一つとして将来に期待されることである。「裸の町」を観ても感じたことであったが、日本の女・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
出典:青空文庫