・・・この歌は、或女の処へ、其女の亭主の幽霊が出て来て、自分は遠方で死だという事を知らすので、其二人の問答の内に、次のような事がある。“Is there any room at your head, Willie?Or any roo・・・ 正岡子規 「死後」
・・・初めて女房の心持で、白砂糖を買ったら、何でも一斤五十銭の上した。私はおどろいて、一体どうして暮して行くのだろうかと考え考え、小っぽけな砂糖袋をもって、お七で有名な吉祥寺の前の春の通りを歩いて行ったことを覚えている。その頃は刺身が一人前五十銭・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・ それから映画も、芸術を通して社会主義社会をどういう風に建設して行くか、ということを一般に知らすものとしてつかわれている。ソヴェトが今日に至ったまでの歴史、生産に対する知識の普及、衛生知識の普及、今日五ヵ年計画がどう行われているかという・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・情偽があろうかという、佐佐の懸念ももっともだというので、白州へは責め道具を並べさせることにした。これは子供をおどして実を吐かせようという手段である。 ちょうどこの相談が済んだところへ、前の与力が出て、入り口に控えて気色を伺った。「ど・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・所詮町奉行の白州で、表向きの口供を聞いたり、役所の机の上で、口書を読んだりする役人の夢にもうかがうことのできぬ境遇である。 同心を勤める人にも、いろいろの性質があるから、この時ただうるさいと思って、耳をおおいたく思う冷淡な同心があるかと・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・ただ彼は自分の博愛心を恋人に知らす機会を失つたことを少なからず後悔した後で、それほどまでも秋三に踊らせられた自分の小心が腹立たしくなって来た。が、曽て敵の面前で踊った彼の寛大なあのひと踊りの姿は、一体彼の心の何処へ封じ込まねばならないのか?・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫