・・・さア大変秋山を殺すなという騒ぎになって、××じゃ将校連が集って、急いで人名簿を調べる。そうして水練の上手な兵士を三十人選抜して、秋山大尉を捜させようと云うんだ。その人選のなかへ、私のとこの忰も入ったのさね。」 吉兵衛さんの顔が、紅く火照・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・「まあ、君、何冊あるか調べてから値をつけたまえ。」「揃っていても駄目ですよ。全くのはなし、他のお客様ならお断りするんですが……。」「一体いくらだよ。そんな意地の悪いことを言わないで。」「そうですね。まア弐円がせいぜいという処・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・それについては少し学究めきますが、日本とか現代とかいう特別な形容詞に束縛されない一般の開化から出立してその性質を調べる必要があると考えます。御互いに開化と云う言葉を使っておって、日に何遍も繰返しているけれども、はたして開化とはどんなものだと・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・これはことごとく平田から来たのばかりである、捻紙を解いて調べ初めて、その中から四五本選り出して、涙ながら読んで涙ながら巻き納めた。中には二度も三度も読み返した文もあッた。涙が赤い色のものであッたら、無数の朱点が打たれたらしく見えた。 こ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・その廃学のときに、これまで学び得たるものを調べて、片仮名を覚えたると平仮名を覚えたると、いずれか生涯の利益たるべきや。平仮名なれば、ごくごく低き所にて、めしやの看板を見分くる便にもなるべきことなれども、片仮名にてはほとんど民間にその用なしと・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・私が盛に哲学書を猟ったのも此時で、基督教を覘き、仏典を調べ、神学までも手を出したのも、また此時だ。 全く厭世と極って了えば寧そ楽だろうが、其時は矛盾だったから苦しんだ。世の中が何となく面白くない。と云った所で、捨てる訳にはゆかん。何とな・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・何だか不思議に心に沁み入るような調べだ。あの男が下らぬ事を饒舌ったので、己まで気が狂ったのでもあるまい。人の手で弾くヴァイオリンからこんな音の出るのを聞いたことはこれまでに無いようだ。(右の方に向き、耳を聳何だか年頃聞きたく思っても聞かれな・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 歩哨はスナイドル式の銃剣を、向こうの胸に斜めにつきつけたまま、その眼の光りようや顎のかたち、それから上着の袖の模様や靴のぐあい、いちいち詳しく調べます。「よし、通れ」 伝令はいそがしく羊歯の森のなかへはいって行きました。 ・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・彼は、役場に用事があった時、戸籍係に、沢や婆さんの戸籍を調べて貰った。彼は三十四年目で始めて、彼女が有坂イサヲと云う姓名で、籍は二里近く離れた柳田村にあることを知った。 此那奇蹟的関心が沢や婆に払われるには原因があった。仙二の家の納屋を・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・そこでドイツの新教神学のような、教義や寺院の歴史をしっかり調べたものが出来ていると、教育のあるものは、志さえあれば、専門家の綺麗に洗い上げた、滓のこびり付いていない教義をも覗いて見ることが出来る。それを覗いて見ると、信仰はしないまでも、宗教・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫