・・・恐らくば、日本国中にも洋学すでに成れりという人物はあるまじく、ただ深浅の別あるのみ。一、学費は物価の高下によりて定め難し。されどもまず米の相場を一両に一斗と見込み、この割合にすれば、たとい塾中におるも外に旅宿するも、一ヶ月金六両にて・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・僅かに資産の厚薄、才学の深浅を以てなおかつ他と伍をなすを屑しとせず。いわんや人倫の大本、百徳の源たる男女の関係につき、潔不潔を殊にするにおいてをや。他の醜物を眼下に視ることなからんと欲するも得べからず。即ち我が精神を自信自重の高処に進めたる・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・甘いつめたい汁でいっぱいじゃ。新鮮なエステルにみちている。しかもこの宝石は数も多く人をもなやまさないじゃ。来年もまたみのるじゃ。ありがたい。又この葉の美しいことはまさに黄金じゃ。日光来りて葉緑を照徹すれば葉緑黄金を生ずるじゃ。讃うべきかな神・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・それに生徒はみんな新鮮だ。そしてそうだ、向うの崖の黒いのはあれだ、明らかにあの黒曜石の dyke だ。ここからこんなにはっきり見えるとは思わなかったぞ。よしうまい。〔向うの崖をごらんなさい。黒くて少し浮き出した柱のような岩がある・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴っていた「敗北の文学」「過渡期の道標」の調子は、そのメロディーを失って熱いテムポにかわった。情感へのアッピールの調子から理性への説得にうつった。 この時期の評論が、どのように当時の世界革・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ それが、却って、云うに云えない今日の新鮮さ、頼りふかい印象を与えているのは、どういうわけなのだろうか。 日本の民主化ということは、大したことであるという現実の例がこの一事にも十分あらわれていると思う。 こういう、云わば野暮な、・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・作品の与える感動の質や強弱や方向や深浅や大小を、具体的に規定している、作品のその関心や理解こそ思想であろう。感動の性質をよそにして作品から思想を抽出し、評価することは出来ない。このように考えられた作品の思想は、作品の骨組みである構成において・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・けれども、恥の考えようもおのずから深浅ありと云おうか。私共には、前司法大臣が破廉恥罪で下獄すると報道されている同日の新聞に、前鉄相が五万円の収賄で召喚されることを読む方が、恥といえば何か恥に近いものがあると感じられるのである。 外国人の・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが、新撰組の残りを中心とする烏合の勢をひきいて甲陽鎮撫隊をつくり、甲州城にのり込もうと進むところを、勝沼で官軍に先手をうたれて包囲された物語である。風雲児的な近藤、土方が戦いを一・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・此の故清少納言の官能は新鮮なそれだけで何の暗示的な感覚的成長もしなかった。感覚的表徴は悟性によりて主観的制約を受けるが故に混濁的清澄を持つほど貴い。だが、官能的表徴は客観によりて主観的制約を受けるが故に清澄性故の直接清澄を持つほど貴重である・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫