・・・もちろん私はよろこんで、半ペラの新しいのを一綴進呈いたしました。 十二月十七日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 十二月十二日 第二十三信 この手紙では林町の生活のことを主として書きましょう。 事務所は依然八・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 戦争に反対し、戦争の挑発に抗議する現代人の要求は、ほとんどすべての文学者の心底にある。しかし、平和愛好の公然たる意志表示、何かの行動にあたって、政治的になることは、意識してさけられつづけている。「チャタレー夫人の恋人」の起訴問題は、一・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・乙名島徳右衛門が事情を察して、主人と同じ決心をしたほかには、一家のうちに数馬の心底を汲み知ったものがない。今年二十一歳になる数馬のところへ、去年来たばかりのまだ娘らしい女房は、当歳の女の子を抱いてうろうろしているばかりである。 あすは討・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 彼らはまず、自分たちのとは違った自然の見方をほんとうに心底から理解してみなくてはいけない。私は彼らが性慾を重んじるからいけないというのではない。彼らが娼婦を描くからいけないというのではない。ただそういうものに対してもっと深い見方のある・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫