・・・例えば日本の貴族は、西洋の歴史にあらわれるような侵入的な外国的存在ではないから、その貴族文学とそこに語られている心情は当時の全国民のものであるという断定での、貴族のエティケットが農民にまで及んでいるのが日本の性格であるというような結論は、何・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・だから集団農場の倶楽部に皆キノだのラジオが集中されて、農村で生産をすると同時に新しい文化が進入して行く。だからトラクトルと一緒に新しい文化が農村に及んで来るわけである。 それでいろいろの部分を見て、非常に感ずることは、ソヴェトのように生・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・体中に掻きむしったような痍の絶えない男の子であるから、病原菌の浸入口はどこだか分からなかった。 花房は興味ある casus だと思って、父に頼んでこの病人の治療を一人で受け持った。そしてその経過を見に、度々瓶有村の農家へ、炎天を侵して出・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・薄井の方の茄子畠に侵入して、爺さんに追われて帰ることもある。牝鶏同志で喧嘩をするので、別当が強い奴を掴まえて伏籠に伏せて置く。伏籠はもう出来て来た新しいので、隣から借りた分は返してしまったのである。鳥屋は別当が薄井の爺さんにことわって、縁の・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・アメリカを征服したヨーロッパ人たちが、このアフリカの沿岸にも侵入し、侵入した限りは破壊し去ったのである。なぜか。アメリカの新しい土地が奴隷を必要としたからである。アフリカは奴隷を供給した。何百、何千の奴隷を、船荷のようにして。しかし人身売買・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫