・・・「オイオイ、他人を悪口する前に先ず自家の所信を吐くべしだ。君は何の堕落なんだ」と上村が切り込んだ。「堕落? 堕落たア高い処から低い処へ落ちたことだろう、僕は幸にして最初から高い処に居ないからそんな外見ないことはしないんだ! 君なんか・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・もうかれとても自家の運命の末がそろそろ恐くなって来たに違いない。およそ自分の運命の末を恐がるその恐れほど惨痛のものがあろうか。しかもかれには言うに言われぬ無念がまだ折り折り古い打傷のようにかれの髄を悩ますかと思うとたまらなくなってくる。かれ・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・破産した人間の土地を値切り倒して、それで時価よりも安く買えると彼は、鬼の首を取ったように喜んだ。 七年間に、彼は、全然の小作人でもない、又、全然の自作農でもない、その二つをつきまぜたような存在となった。僅か、六畝か七畝の田を買った時でさ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 親爺は、自家に作りたい畠だと云って、売り惜んだ。 坪、二円九十銭にせり上った。 親爺は、地味がいゝので自家に作りたい畠だと、繰りかえした。そして、売り借んだ。単価がせり上った。 僕は、傍でだまってきいていて、朴訥な癖に、親・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ そういう訳で銘々勝手な本を読みますから、先生は随分うるさいのですが、其の代り銘々が自家でもって十分苦しんで読んで、字が分らなければ字引を引き、意味が取れなければ再思三考するというように勉強した揚句に、いよいよ分らないというところだけを・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・信長に至っては自家集権を欲するに際して、納屋衆の崛強を悪み、之を殺して梟首し、以て人民を恐怖せしめざるを得無かったほどであった。いや、其様な後の事を説いて納屋衆の堺に於て如何様の者であったかを云うまでも無く、此物語の時の一昨年延徳三年の事で・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・停車場は銀行から二町もなかった。自家も停車場の近所だったから、すぐ彼はうちへ帰れて読みかけの本が読めるのだった。その本は少し根気の要るむずかしいものだったが、龍介はその事について今興味があった。彼には、彼の癖として何かのつまずきで、よくそれ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・虚偽を去り矯飾を忘れて、痛切に自家の現状を見よ、見て而してこれを真摯に告白せよ。この以上適当な題言は今の世にないのでないか。この意味で今は懺悔の時代である。あるいは人間は永久にわたって懺悔の時代以上に超越するを得ないものかも知れぬ。 以・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・差し上げまいかとも思ったのですが、一遍書いたものは、もう僕と異ったものですから、虚飾にみちた自家広告も愛嬌だと思い、続けて自己嫌悪を連ねようと考えたのですが、シェストフで、誤魔化して置きます。御免なさい。さて、現在のぼくの生活ですが、会社は・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・三、自家広告が上手で、自分のことばかり言っている。四、臆病なり。弱い男なり。意気揚らず。五、不誠実。悪巧をする。狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺七、彼が約束を守らぬ・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
出典:青空文庫