・・・彼女の努力でも精力でも、どうしても実施されなかったことが、このスクータリーに一つ残った。病兵の喰べる「肉を骨から離す」事である。役所の規定は「食物は等分に分配すべし」とだけあって、配られたのが骨ばかりだったにしてもそれはその兵士の不運なのだ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・アメリカにもイギリスにも婦人の通俗作家、探偵小説の作者はあんなにいて、それだけの文化と文学の土台から評論家として立っている婦人は恐らく十指に満つまい。 文学においても、婦人の活動の最低の線がどこまで拡がり且つ上って来ているかということが・・・ 宮本百合子 「文学と婦人」
・・・真実の婦人参政権の要求を持つなら、或は先に、普通選挙法の実施を団結し熱烈に追求すべきであるかもしれません。〔一九二三年二月〕 宮本百合子 「法律的独立人格の承認」
・・・父の命を助けて、その代わりに自分と妹のまつ、とく、弟の初五郎をおしおきにしていただきたい、実子でない長太郎だけはお許しくださるようにというだけの事ではあるが、どう書きつづっていいかわからぬので、幾度も書きそこなって、清書のためにもらってあっ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・実に忍藻はこの老女の実子で、父親は秩父民部とて前回武蔵野を旅行していた旅人の中の年を取った方だ。そして旅人の若い方はすなわち世良田三郎で、母親の話でも大抵わかるが、忍藻にはすなわち夫だ。 この三郎の父親は新田義貞の馬の口取りで藤島の合戦・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫