・・・上層の風は西から東へ流れているらしく、それが地形の影響を受けて上方に吹きあがる所には雲ができてそこに固定しへばりついているらしかった。磁石とコンパスでこれらの雲のおおよその方角と高度を測って、そして雲の高さを仮定して算出したその位置を地図の・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・この結果によると、太平洋岸や瀬戸内海沿岸の多くの場所では、いわゆる陸軟風と季節的な主風とが相殺するために、夕なぎの時間が延長されるのであるが、東京では、特殊な地形的関係のおかげでこの相殺作用が成立しない。そのために、正常な天候でさえあれば、・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・また気象図を広げて見る。地形の複雑さに支配される気温降水分布の複雑さは峠一つを隔ててそこに呉越の差を生じるのである。この環境の変化に応ずる風俗人情の差異の多様性もまたおそらく世界に類を見ないであろう。一つは過去の封建制度によってこれが強調さ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・蝙蝠傘は畳んだまま、帽子さえ、被らずに毬栗頭をぬっくと草から上へ突き出して地形を見廻している様子だ。「おうい。少し待ってくれ」「おうい。荒れて来たぞ。荒れて来たぞうう。しっかりしろう」「しっかりするから、少し待ってくれえ」と碌さ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・一、二の例をいうて見ると、山水の景勝を書くのを目的としたものや、地理地形を書くことを目的としたものや、風俗習慣を書くことを目的としたものや、あるいはその地の政治経済教育の有様より物産に至るまで細かに記する事を目的としたもの、あるいは個人的に・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・結局洪積紀は地形図の百四十米の線以下という大体の見当も附けてあとは先生が云ったように木の育ち工合や何かを参照して決めた。ぼくは土性の調査よりも地質の方が面白い。土性の方ならただ土をしらべてその場所を地図の上にその色で取っていくだけなのだが地・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・それから三日の間は、はげしい地震や地鳴りのなかで、ブドリのほうもふもとのほうもほとんど眠るひまさえありませんでした。その四日目の午前、老技師からの発信が言って来ました。「ブドリ君だな。すっかりしたくができた。急いで降りてきたまえ。観測の・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・団長は、しきりに地図と眼の前の地形とくらべていましたが、しばらくたって眼鏡をちょっと直しながら、「そうです。あれがヒルテイの村です。私たちの教会は、多分あの右から三番目に見える平屋根の家でしょう。旗か何か立っているようです。あすこにデビ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その六十里の海岸を町から町へ、岬から岬へ、岩礁から岩礁へ、海藻を押葉にしたり、岩石の標本をとったり、古い洞穴や模型的な地形を写真やスケッチにとったり、そしてそれを次々に荷造りして役所へ送りながら、二十幾日の間にだんだん南へ移って行きました。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ ○枯木雪につつまれた山肌 茶と色との配色 然し女性的な結晶のこまかさというようなものあり ○山と盆地 ○下日部辺の一種複雑な面白い地形 然し小さし ○信州に入ると常磐木が多い。山迚も大きい感。常磐木があるので黒と白の配色。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫