・・・母のジェニファーは、ほかならぬ女相手のしかも衣裳屋として成功し、立派な店をも持っているからには、純情であろうと十分この世の良識はそなえている筈ではないだろうか。二人の娘たちに対して、受け身に、曖昧に、謂わばイレーネに見つけられたという工合で・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・などを拝見しまして、あの中にある弱い男の殉情的な気持などを観ると、よくその中から今度のことが思い合わされるように思われます。〔一九二三年七月〕 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・然し、彼が、性格的にあれ程殉情的なところと、理想主義、殆どストイックなところとのあったことに、今度のパニックは重大な関係を持つこと丈は争われない。 彼には、実に多くの、美しい、センチメンタリティー、甘さがあった。自分のような女性、若者に・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・ 私たちは、若い娘さんたちの純情を思いやって、浦和の娘さんたちを気の毒に思うとともに、そういう形での行進を迎えなければならなかった東京の市民も気の毒に思う。なぜなら、そういう行進を考えついた人が娘さんと市民との間にいたわけなのだから。も・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ 女性がとかく陥り易い空疎な主義や殉情的な甘さから脱して、人生をその儘 matter of fact として描いて行こうとする態度である。これ等三様の態度を反省して見て思う事は、先ず第一、各の傾向に intentional な選択が行わ・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 壮年の粗硬と青年の純情さ、 二月二十五日 地面には、まだ昨日降ったばかりの雪が、厚く積って居る。が、空は柔かく滑らかな白雲を浮かべて晴れ渡って居た。 雲の消え入るようにやさしいすき間には、光った月と無数の星とがキラキラ・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・の統制に関する法律が悪法であると明言しながら、それが法律であるからにはひとにも厳格に適用し、自分もそれで死ぬことをむしろいさぎよしとしたこの判事の悲劇は、「葦折れぬ」の純情がその社会問題のうけとりかたでは文部省版であったことの遺憾さとともに・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・ 女というものをも、トルストイはツルゲーネフの考えていたように、純情、献身、堅忍と勇気とに恵まれたもの、その気まぐれ、薄情、多情さえ男にとって美しい激情的な存在という風に理想化して理解してはいない。もっと動物的に、或は愚劣に、或は恐ろし・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・けれども、現在、学校に勤められ、複雑な事情の許に置かれる先生の上を考えると、私の殉情はよい結果を齎しそうにない。筆を擱〔一九二三年九月〕 宮本百合子 「弟子の心」
・・・ このような用語が許されるならば、前者は感情的偏狭により、後者はその殉情的 extravagance により、倶に、心に迫る芸術的真実の生命を欠いているように思われるのでございます。或る場合には、他の作品に於ても認められるこれ等現象の根・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
出典:青空文庫