・・・ 冷遇て冷遇て冷遇抜いている客がすぐ前の楼へ登ッても、他の花魁に見立て替えをされても、冷遇ていれば結局喜ぶべきであるのに、外聞の意地ばかりでなく、真心修羅を焚すのは遊女の常情である。吉里も善吉を冷遇てはいた。しかし、憎むべきところのない・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・いわんや、かの戦争の如き、その最中には実に修羅の苦界なれども、事、平和に帰すれば禍をまぬかるるのみならず、あるいは禍を転じて福となしたるの例も少なからず。 古来、暴君汚吏の悪政に窘められて人民手足を措くところなしなどと、その時にあたりて・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・恨みの心は修羅となる。かけても他人は恨むでない。」 穂吉はこれをぼんやり夢のように聞いていました。子供がもう厭きて「遁がしてやるよ」といって外へ連れて出たのでした。そのとき、ポキッと脚を折ったのです。その両脚は今でもまだしんしんと痛みま・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・の一言で聞き捨て、見捨て、さて陣鉦や太鼓に急き立てられて修羅の街へ出かければ、山奥の青苔が褥となッたり、河岸の小砂利が襖となッたり、その内に……敵が……そら、太鼓が……右左に大将の下知が……そこで命がなくなッて、跡は野原でこのありさまだ。死・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫